------------------------------------------ かに座の味わい ------------------------------------------ 3月は霞がかかりやすい季節。冬の凛と澄んだ空気から、柔らかい春の空気へと 変わってきたことを実感する日も多いでことでしょう。派手だった冬の星空は西 の空に追いやられ、かわって東の空からは春の星座たちが顔を出します。しし座 のレグルスやおとめ座のスピカのような明るい1等星は、東京の夜空でも簡単に 見つけることができます。ぜひご自身の目で探してみて下さい。 今回ご紹介したいのは、有名だけどなかなか見つけられない春の星座、かに座で す。明るい星が少なく、東京の夜空だと、ぎりぎり星が見えるか見えないか。直 接かに座を見つけるのは簡単ではないのですが、誕生星座の並びの通り、ふたご 座としし座の間にあることを知っていれば、おおよその位置のあてはつくでしょう。 このかに座には、かに座55番星と呼ばれる、あまり耳慣れない星があります。で もこの星、天文業界ではとっても有名な星のひとつなのです。それもそのはず、 この星の周りには、少なくとも5つの惑星がまわっていることがわかっているの です! 私たちの太陽系には、水金地火木土天海の8つの惑星がまわっています。同じよ うに、夜空に見える多くの星たちの周りにも惑星が回っているらしいことが、最 近わかってきました。1995年に最初の太陽系外惑星が発見されて以来、続々と系 外惑星は発見され続け、今では500個を超える系外惑星が見つかっています。 かに座の55番星系を有名にしているのは、惑星のひとつが水が液体で存在できる ハビタブルゾーンにあることです。水が個体でも気体でもなく、液体で存在でき ることは、地球型の生命の存在には必須です。残念ながらその惑星自身は木星の ようなガス惑星であるので地球と同じ…というわけにはいかないのですが、その 惑星の周りにちょうど良いサイズの衛星が回っていれば、そこに生命の可能性が あるかもしれないのです。もしかすると、そこには海があって、豊かな森があっ て、生命溢れる世界が広がって…。そんなことを考えながら夜空を眺めると、都 会の夜空もまた違った風に見えるのでは?ぜひお試しあれ。 高梨 直紘 天文学普及プロジェクト「天プラ」代表 / 東京大学 特任助教