★☆★☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ [3]【コラム】北斗でたどる春の星空 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆★☆ きらびやかな冬の星座が西に退場して、幾分静かになった印象の春の宵、北の 空を天頂近くまで見上げてみる。“ひしゃく(斗)”をかたどるように連なる七つ の星、と言えばきっと誰もがその名を知っているだろう。雄大な「北斗七星」 は、この季節の夜空の道標だ。ひしゃくの“枡(ます)”の先にある二つの星を結 んで五倍ほど延ばすと、「北極星」を見つけることができる。地球の自転軸の延 長線上(天の北極)に近く、星の日周運動の中心を教えてくれる星だ。翻って、 ひしゃくの“柄(え)”の緩やかなカーブを伸ばしていくと、うしかい座のアルク トゥルス、おとめ座のスピカと一等星を辿る「春の大曲線」が星座探しの手掛か りとなる。 北斗七星は、現在定められているものとしては、実は独立した“星座”ではな い。おおぐま座という巨大な星座の一部分に当たる。けれども、ほぼ明るさの 揃った七つの星の並びは一目でそれと分かりやすく、世界の様々な文化圏で親し まれてきた。今日私たちに最も身近なのは、“北斗”の名の通り、ひしゃくの見立 てだ。英語でも“Big Dipper”の呼び名がある。七つの星を四つ(枡の部分)と三 つ(柄の部分)に分けて形を見出すこともある。四角に並ぶ星を車、三つの星を それを牽く馬や人として、王の乗る馬車や戦車に見立てる文化も、洋の東西いず れにも存在する。ネイティヴアメリカンの部族では、大きな熊(四つの星)を追 う三人の狩人、という神話も語られているとか。日本でも「しそう(四三)の 星」という双六遊びの賽の目になぞらえた呼び名が、古くから伝わっているらしい。 一千光年にわたって広がる恒星空間を体験できるのが「スカイ プラネタリウム2」。 私達が地上から見上げる星空の奥行きに気付くだろう。その星の海を通り抜け、 更に遠くの宇宙を知るには、近くの星やガスの影響を避けなければならない。天の 川の方角から離れた北斗七星の周辺は、そうして遠い宇宙まで覗き込むことがで きる「宇宙の窓」だ。最先端の巨大な望遠鏡群によって、120億光年彼方の銀河 の群れが観測されている。夜空に輝くひしゃくの中には、そんな宇宙の深遠が静か に満ちている。 内藤誠一郎 国立天文台 専門研究職員