★☆★☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ [6]【コラム】クリスマスツリーと星と十字架 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆★☆ 「クリスマスプレゼントは何がいい?」 「えーと。。。クリスマスツリーのてっぺんにあるおっきなおほしさま!」 皆さんには、そんな純粋な頃はありませんでしたか?(ちなみに私はありません でした)。このクリスマスツリーのてっぺんの星、これがなんの星かご存知で しょうか。この星は「ベツレヘムの星」を模したものといわれています。 ベツレヘムの星は、イエス・キリストが産まれた時に東方の占星術の学者たち (東方の三賢人とも呼ばれますが、新約聖書には人数は明記されていません) を、キリストが産まれたベツレヘムへと導いた星だと言われています。その星を クリスマスツリーの頂に冠するというのは、イエス・キリストの降誕祭としては 相応しいオーナメントだと言えるでしょう。 では、このベツレヘムの星とは、いったいどんな星だったのでしょうか。メシア (救世主)の誕生を示した奇跡の星であるとか、「星の予言」として知られてい た予言の成就を示したものであるとか、さまざまな説がありますが、天文学的に はどのような可能性があるのでしょうか。 例えば、ハレー彗星がベツレヘムの星の正体であるとする説があります。周期彗 星であるハレー彗星は、過去に地球に接近した年代も計算することが可能です。 計算によれば、紀元前12年に来ていたということが知られているのです。しか し、これはイエス・キリストの誕生年が少し違います(紀元前7~4年の間)。ハ レー彗星を推す説は、少し分が悪そうです。 明るく見える惑星同士が見かけ上近づくような現象が、その時期にあったのでは ないかという説もあります。しかし、これもちょっとタイミングが合わなかった り、そもそも惑星が狭い範囲に複数見える現象がそこまで珍しくない現象だった りと、これも言い切るまでの根拠に薄そうです。 突然明るく光る星といえば、星の最後の大爆発である超新星が思い浮かぶのです が、古い記録にはその時期に超新星があったという記録はありません。ちょうど 12月の夜に、西の空に見えるはくちょう座にも超新星の後に残される超新星残骸 (NGC6960)があるのですが、この超新星残骸は約1万5千年前に爆発したとされる 超新星の残骸ですので、時期が全く合いません。また、「超」ではないふつうの 新星のような急に明るくなった天体の可能性もありますが、こちらも確たる証拠 があるわけではありません。 そもそも、新約聖書が口語的なギリシャ語で書かれたものをを英語に翻訳したも のなので、翻訳がちょっと間違えたのではないかとか、この星はマタイによる福 音書の筆者らによるフィクションではないかという、身も蓋もない話もありま す。結論としては、天文学的な確証はなく、ベツレヘムの星がなんであるかは特 定されていません。 聖書の解釈はおいておいて、天文文化史的には、ひとつ面白い事実はあります。 「ノーザンクロス」もしくは「北十字」という言葉を聞いたことはありますか? 「南十字星」(南十字座)ではなく「北」十字です。これは天文学会で使われて いる正式な名称ではありませんが、夏の星座であるはくちょう座の通り名でもあ ります。北半球から見える十字の形の星座であることからそう呼ばれるのです が、先ほども言ったように12月の日暮れ後には、西の空に輝いて見えます。 現在では斜めに傾いて沈んでゆくはくちょう座ですが、2000年前は少し状況が違 います。地球の歳差運動のために地軸の向きが現在とは違い、そのため、はく ちょう座が沈む時は地面に対しまっすぐに沈んでゆきます。それはまさに巨大な 十字架。イエス・キリストが産まれたであろう時期の西の空には、地面に突き刺 ささる十字架のような星空が輝いていたことでしょう。 この北十字、六本木ヒルズの屋上からも確かめることができます。今年のクリス マスには、東京の街に突立つ天空の十字架の形を探してみてはどうでしょうか。 もしかしたらベツレヘムの星も見つかるかもしれません。もしそこにあなたの知 らない明るい星が見つかれば、それはあなただけのメシアが現れる兆候かもしれ ませんね。あなたにとってのメシアは救世主?それとも・・・? Merry Christmas 日下部 展彦 東京大学 / 天文学普及プロジェクト「天プラ」