★☆★☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ [4]【コラム】「冬の星空から星の一生を観る」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆★☆ 新年明けましておめでとうございます。 今年も、昨日極大を迎えたしぶんぎ座流星群を皮切りに、4月4日の皆既月食や8 月のペルセウス座流星群など、さまざまな天体現象が待ち受けています。今年も みなさんと一緒に空を見上げることができれば良いですね。 さて、頭の上の星空では冬の星座たちが高く昇るようになってきました。砂時計 のような形をしたオリオン座も、簡単に見つけられるのではないでしょうか? この冬の星空を眺めていて思い出すのは、昨年末の天体観望会でのやりとりです。 私が天体観望会に参加していた宇宙好きなお子さんとおしゃべりしていた時に、 冬の星空では星の一生を見ることができるんだよという話をしたところ、非常に 不思議そうな表情で「星って、一生があるんですか?」と聞かれたのです。 そう、星には一生があるのです。夜空に輝く星(恒星)は、生まれて、大人の星 になり、そして死ぬという、人間と同じ一生があるのです。その寿命は、星の種 類にもよりますが、例えば太陽では100億年程度であると考えられています。 実は、この星の一生のさまざまな段階にある天体が、冬の星空には隠れていま す。どこに、どんな段階の天体があるのかをご紹介しましょう。 まずはオリオン座です。星は、分子雲と呼ばれる主に水素のガスからできた雲の 中から兄弟星と一緒に誕生してきます。生まれたばかりの星は、ガスに包まれて いるように見えるものがあります。オリオン座の腰のベルトの位置にあたる三つ 星、その下に並ぶ小三つ星の真ん中に見える天体が、オリオン座大星雲(M42) です。その正体は、生まれたばかりの赤ちゃん星たちの強烈な紫外線によって照 らされて輝くガスなのです。オリオン座大星雲は、まさに星のゆりかごなのです。 このように星は同じ分子雲の中から集団で生まれてきますが、もう少し時間が経 過すると、周囲のガスをだんだんと吹き飛ばし、兄弟星だけで輝くようになりま す。オリオン座の右上に見えるおうし座を見てみましょう。おうしの肩の部分の あたりに、肉眼でもいくつかの星がごちゃごちゃとかたまって見えるポイントが あります。これがプレアデス星団(M45)、和名では「すばる」と呼ばれる天体 です。双眼鏡で覗けば、青白く光る星々が群れをつくっているのがわかります。 その後、だんだんと兄弟星たちと離ればなれになっていった恒星が、夜空に星座 を形作る星たちです。私たちの太陽も、そういった星たちのひとつです。これら の星の多くは、自らの内部で水素と水素がくっついてヘリウムに変化する核融合 反応によって、エネルギーを生み出しています。そのような星を、主系列星と呼 びます。 そんな主系列星も、いつか燃料となる水素を使い果たしてしまう時が来ます。そ の後の過程は、星自体の質量によって異なりますが、太陽のおよそ8倍以上の重 さのある星は、超新星爆発とよばれる膨大なエネルギーを解き放つ現象を起こし ます。これを起こすと、猛烈に明るい光を放ちます。 おうし座の角(つの)の先にあたるポイントには、この超新星爆発の痕跡である 超新星残骸、かに星雲(M1)を見ることができます。ここにあった天体は、1054 年に爆発したと考えられており、実際、明るく見える星が出現したという記録が 藤原定家の書いた「明月記」の中に残っています。天文学の世界では、比較的最 近の出来事です。オリオン座のベテルギウスも、もうすぐこの超新星爆発を起こ すと考えられています。定家が書き残したような猛烈な光を、私たちもみること ができるでしょうか? この超新星爆発によって宇宙空間にまき散らされた物質は、宇宙のどこかでまた 分子雲を作り、新しい星の材料となります。つまりひとつの星の終わりは、新た な星の始まりなのです。星は、輪廻転生を繰り返しているのです。 初めにお話ししたとおり、冬の星座の中にはさまざまな天体の姿を見ることがで きます。そんな事を考えながら、夜空を眺めてみると違った見え方に気が付くこ とができるかもしれません。 これからは星見のシーズンです。六本木天文クラブの定例観望会はしばらくお休 みですが、暖かくして冬の夜空を味わってみて下さい! 柴田 吉輝 日本大学理工学部 / 天文学普及プロジェクト「天プラ」