★☆★☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ [3]【コラム】「木星の味わい」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆★☆ 12年前の今日、あなたはなにをしていたでしょうか。 日が落ちてしばらくすると、東の空にひときわ明るい星が見えています。これは 太陽系の第5惑星である、木星です。その明るさは、周囲に見える冬の1等星より もずっと明るく、マイナスの2.5等級にも達します。きらびやかな冬の星空に あっても、その存在感は群を抜いています。 その木星の光には、柔らかさを感じます。おおいぬ座のシリウスのように青白い 星に比べると、木星は少し黄色味がかった淡い色。この独特の色味に加え、きら きらとせわしなく瞬く星座の星たちと違って、瞬かず、静かに光を放っている様 子もまた、その印象を強くしているのでしょう。 ジュピターという木星の英語名は、ローマ神話における主神ユピテルから来てい ますが、この神はギリシア神話における大神ゼウスと同一視されます。木星の周 りを取り巻く衛星には、ゼウスの寵愛を受けた美少年や姫たちの名前が付けられ ていることを知っていたとしても、その印象は変わら…るかもしれませんが、そ れも味わいのひとつでしょう。 この木星は、古代の天文学において重要な地位を与えられた天体でもあります。 星座の中をさまよう木星の意味ありげな動きは、肉眼で見える他の4惑星の動き とともに、この世界の成り立ちと自らのあり方を知らんとする人々にとって、な にがしかの手がかりを与えてくれる存在だったのです。 木星を熱心に観察した人たちは、それが12年の周期で元にいた星座の場所へ戻っ てくることに気がつきました。これは、木星がおよそ12年の周期で太陽の周りを 公転することに起因します。長年に渡る努力の上に、無秩序に見える中に秩序を 見いだした先人の驚きは、いかばかりだったでしょうか。 忙しい日常に追われる私たちに、この先人が感じた宇宙の神秘を捉えることは難 しいことでしょう。しかし、12年前に、自分はなにをしていたのか。24年前はど うだったか。ふと立ち止まって木星を眺め、昔の自分をたぐりよせていくとき、 その先に古代の人々が感じた宇宙の神秘に触れることができるかもしれません。 六本木天文クラブが再開するのは5月から。その時期には、まだ木星は見えてい ます。天体望遠鏡で眺めるのはそれまでの楽しみとして、いまはぜひあなた自身 の目で、木星を見つけ、味わってみてはいかがでしょうか。 高梨 直紘 天文学普及プロジェクト「天プラ」