★☆★☆・‥‥━━━☆・‥‥━━━☆・‥‥━━━☆・‥‥━━━☆★☆ [6]【コラム】「赤き星に天文学の歴史を」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆★☆ 近頃、夜が更けてきたころの南東の空に、気味が悪いほど赤い星が輝いているの を目にした人も多いのではないだろうか?血を連想させるその光こそ、軍神マル スの名がつけられた地球のすぐ外側を回る惑星・火星だ。このところ『オデッセ イ』や『テラフォーマーズ』など火星を舞台にしたSF映画で、その名を耳にした ことがあるかもしれない。火星人、と言われればすぐさまタコのような姿が思い 浮かぶように、昔から人類の想像力をかきたててきた惑星だ。 しかし、去年の今頃、あんなにも目立つ星が見えていただろうか?見えていなか ったはずだ。火星は地球のすぐ外側を公転するがゆえに、夜空での動きが早い。 地球に追い越されてはまた追いつかれ…これを2年2ヶ月ごとに繰り返している。 季節や時間帯は変われど毎年、夜空に見ることができる木星や土星と、火星が大 きく異なる点だ。そして火星は、その軌道のつぶれ具合によって、地球に近づく ときの距離が毎回変化する。1億キロメートルほどしか近づかないときもあれば、 5000万キロメートル台まで近づくこともあるのだ。今年はそんな2年2ヶ月ぶりに 火星が地球に近づく年。最接近は5月31日、約7528万キロメートルまで近づく。 このような動きをする火星だからこそ、天文学の発展に果たした役割も大きい。 今から450年ほど前、16世紀の天文学者ティコ・ブラーエは、星空の中を日々動 いていく火星の位置を精密に測定した。彼の観測記録は望遠鏡の発明以前として は最高精度を誇ると言われ、その精密なデータは助手のケプラーに引き継がれ た。そしてケプラーはそのデータから火星が真円ではなく楕円の軌道を公転して いることを発見し、後にケプラーの法則と呼ばれる惑星運行の法則を導き出し た。その後、ケプラーの法則はニュートンの万有引力の法則へと繋がっていく。 火星の軌道がもっと円に近かったら…惑星の軌道が楕円であることに気づかれ ず、天文学の発展は遅れていたかもしれない。 火星の動きは、なにも望遠鏡がなくても、ティコのような超人的能力がなくても 観察することができる。火星の近くに輝く、赤みがかった星…火星のライバルと いう意味の名を持つさそり座の1等星アンタレスだ。アンタレスとの位置関係を 日を置いて見ていけば、火星が動いていく様子が一目瞭然だろう。 風が心地よく感じる今の季節。夜風に吹かれながら空を見上げ、過去の天文学者 を追体験しつつ天文学の歴史に思いを馳せてみてはいかがだろう。そう、一つだ け気をつけなければならないことがある。火星、そしてアンタレスの近くにもう 一つ、黄色く輝く星がある。太陽系第6惑星・土星だ。火星の動きを測るとき、 土星を基準にしてはいけない。火星ほどではないとはいえ、土星も夜空の中を 惑っているのだから。 塚田 健 平塚市博物館 / 天文学普及プロジェクト「天プラ」