★☆★☆・‥‥━━━☆・‥‥━━━☆・‥‥━━━☆・‥‥━━━☆★☆ [4]【コラム】「星空の遊び方」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆★☆ 最近、日が沈んだ後の西の空高くに、ひときわ明るく輝く星があるのに気がつい ているでしょうか。これは宵の明星、金星です。今日時点での明るさはマイナス の4.5等で、1等星のおよそ150倍にも及びます。あまりにも強い光に、すわUFO か!と天文台に電話をしてくる人もいるほど。まあ、金星の見える時期の風物詩 のようなものです。 でも、あの鮮烈な輝きを見てしまうと、私はその早とちりを笑うことはできません。 私もまた、久々に金星を見ると、超新星?と少しどきりとすることがあるからです。 超新星は、星の一生の最期に起きる爆発現象です。ピーク時の明るさは、なんと 太陽の数百億倍。銀河ひとつ分の明るさに相当する光を、ひとつの天体が放つの です。宇宙でもっとも派手な現象のひとつと言えるでしょう。 ただ、残念なことに超新星は希な現象なのです。滅多に見ることができません。 統計的な調査からは、1つの銀河あたりでは100年に1個程度の割合で出現する と考えられています。私たちの住む銀河系の場合、肉眼で見えたと記録に残って いる最新のものでも、今から約400年前のもの。もうかなり前の話です。 しかしながら、この超新星、ひとたび出現すれば強烈な印象を人々に与えてきた ようです。日本の古文書の中にも超新星の出現記録が残っているのですが(「客 星」と呼んでいました)、それによれば数ヶ月にわたって昼間の空にも見えもの もあったようです。西洋では、このような超新星の存在が永遠不変であるべき天 の完全性に疑いを与え、そこから近代の目覚めにつながっていったとか。そんな 超新星に一生に一度くらい出会ってみたいものだと考えていると、ついつい金星 に騙されるのです。 実は冬の夜空には、この超新星爆発が間近と思われている星がいます。オリオン 座にある1等星のベテルギウスです。オリオンの右肩に輝くこの赤い星は、その 一生の最終段階まで来ています。赤い色をしているのが、その証拠。太陽の約 1000倍のサイズまで巨大に膨らみ(想像があまりできませんが、太陽系に当ては めるなら木星軌道の近くくらいまで)、表面は低温の赤い星へと進化しています。 恒星進化論に基づけば、これは超新星爆発が間近に迫っているサインなのです。 もっとも、間近とは言ってもこれは宇宙スケールでの話。これが明日の話なのか、 1万年後の話なのかは諸説あってまだわかりません。しかし、もし爆発したと なれば、人類史にも残るであろうイベントになるのは間違いありません。均整 の取れたオリオン座の形が崩れてしまいますが、一刻も早く爆発していただきた いものです。 ところで、ベテルギウスの爆発を心待ちにしているのは、私たちだけではないか もしれません。銀河系に住むかもしれない、天文学を発達させた知的生命であれ ば、みんな同じことを考えている可能性があります。なんといってもレアな現象 なので。いまこの瞬間も、さまざまな方向からベテルギウスを見ている“人”がい るかと思うと、ベテルギウスの味わいもまた変わってくるかもしれません。 星空は、想像力ひとつでいかようにも見え方が変わります。どんな見方ができる かは、あなたの想像力次第。東京の夜景を眼下に星空を眺められるスカイデッキ は、ひいき目に見ても東京で(物理的にも)最高の星空観望スポットです。あなた なりの星空の楽しみ方を探しに、今年もぜひ六本木天文クラブに足をお運びあれ!  月をこそ ながめなれしか 星の夜の 深きあはれを 今宵知りぬる                       建礼門院右京大夫 高梨 直紘 天文学普及プロジェクト「天プラ」