2010年1月20日
2010年、部分日食
ほぼ一ヵ月間ブログをお休みしていましたが、元気にやっております。
昨年末は、建設が進むALMAのユーザー向け会合が東京で開かれたので、研究打ち合わせも兼ねて出張してきました。年末年始は実家でゆっくりと過ごし、1月4日から台湾に戻ってきています。
昨年は懸案だった論文を書きあげて論文誌に投稿できたこと、ハワイのサブミリ波電波干渉計SMAに提出した観測提案が採択され無事に観測できたことで、最低限のノルマはクリアしたかな、という印象でした。今年は昨年観測したデータをきちんと解析して論文にまで持っていき、たまってしまっている他のデータの処理も片づけて、さらに先を見据えて研究を進めていこうと思っています。
写真は、1月15日に起きた部分日食です。昨年7月の日食は沖縄で食分93%の日食を見ることができましたが、今回は今住んでいる新竹市の海岸近くにいって写真を撮ってきました。ちょうど日没時間帯の日食ということで、大学から10kmくらい自転車で走って西側が開けた海(台湾海峡)まで行ってきました。
日食が始まったころはまだある程度高い位置に太陽があったので、太陽観測用のフィルタをつけて写真を撮ったり、日食グラスを使って目で見ていたりしたのですが、時間が経過して太陽が低くなってくると、大気層のおかげでその光も暗くなり、日没前にはフィルタなしでもちゃんと太陽の形を写真に収めることができるようになりました。肉眼でも全くまぶしさを感じないで太陽を見ることができましたし、日没時の日食というのはやはり前景と欠けた太陽が一緒に見えるので、空高い位置での日食とはまた違った趣があります。僕の他にも写真やビデオを撮っている人がいたり、散歩やサイクリングに来ていた人がこの欠けた太陽を眺めていたりして、ほぼ水平線まで雲がなかったことも幸いして多くの人がこの風景を楽しんでいたようです。
去年の日食以来すっかり日食にハマっているのですが、半年後の南太平洋(イースター島あたり)皆既日食にはさすがに行けません。でもいつか皆既日食は見てみたいなぁ、と思う今回の日食でした。
投稿者 平松正顕 : 22:00
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2009年12月13日
すばる望遠鏡などの運営経費削減の危機に対するアピール
事業仕分けで「削減」との提言がなされた、すばる望遠鏡などの運用費を含む国立大学運営費交付金特別教育研究経費について、国立天文台が多くの人からの意見を募集しています。
国立天文台:すばる望遠鏡などの運営経費削減の危機に対するアピール
仕分けの直後にも、立花隆さんと国立天文台を含む自然科学研究機構の5研究所のトップが緊急会見・討論を開いてこの問題を取り上げていました。また、自然科学研究機構や高エネルギー加速器研究機構など大学共同利用機関法人全体での要望「国立大学法人・大学共同利用機関法人における運営費交付金の確保について(要望)」も出ています。
せっかくの機会なので、この件についての情報をまとめてみようかと思います。本当は仕分け直後にやればよかったんですけど・・。仕分け自体の資料としては、以下のものが参考になります。
・行政刷新会議 http://www.cao.go.jp/sasshin/index.html
・ワーキンググループ配布資料(国立大学運営費交付金)
・評価コメント
・文字起こし(音声ファイルへのリンクも)
特別教育研究経費の仕分け議論については、運営費交付金本体の議論とグローバルCOEなど「大学の先端的取り組み支援」のところと両方でなされています。後者は文字に起こされたものがないのですが、こちらから音声ファイルをダウンロードすることができます。
http://d.hatena.ne.jp/riocampos/20091125/p3
おなじく特別教育研究経費で運営されている装置を持つ機関からの声明・意見表明もあります。
・高エネルギー加速器研究機構(KEK) 機構長コラム「予算の事業仕分けに物申す」
・東京大学宇宙線研究所 行政刷新会議、事業仕分け作業ワーキンググループが、「スーパーカミオカンデによるニュートリノ研究」を含む経費を予算縮減と評定
国立天文台のアピールや立花さん討論会での台長の説明によると、すばる望遠鏡と広域精測電波望遠鏡VERA(岩手、父島、鹿児島、石垣に電波望遠鏡を置いてこれらをコンピュータ上でつなぎ、日本列島に匹敵する口径の電波望遠鏡として使う)の運用経費と、チリに建設中のALMAの建設費の一部が今回削減という提言がなされた特別教育研究経費で賄われているそうです。国立天文台以外には、上に挙げたつくばの高エネルギー加速器研究機構KEKの加速器KEKB、東京大学宇宙線研究所のスーパーカミオカンデの運営経費などもこの費目での予算請求となっています。さらに上のワーキンググループ配布資料を見ると、この特別教育研究経費はこうしたビッグプロジェクトだけでなく、「各大学の使命等に沿った教育研究の推進」というのにも使われています(資料13ページ目)。高齢社会における自殺予防研究とか、アフガニスタンなどでの女子教育などがあるそうです。さらに留学生支援や就職支援もこの特別教育研究経費の一部が使われているそうです。
これだけ多岐にわたる項目をサポートしている特別教育研究経費をどう査定するのかというのは難しい問題だと思います。この費目自体は「(割合を明記しない)削減」という結論になっているのですが、上の会議文字起こしや音声ファイル、あるいは評価コメントで確認すると、特にビッグプロジェクトに関わる議論はほとんどされておらず、削減あるいは廃止と結論づけた方も「別枠にするのではなく運営費交付金本体と統合すべき」「他の競争的資金と重複があるものは見直すべき」という立場であることがわかります。「成果の還元は十分か」「ビッグプロジェクトも本当に見直すべき点は無いのか」という指摘もあるので、ここについてはもちろん研究者側もしっかりと受け止めて対応することが必要だと思います。が、このような議論の流れであったのにプロジェクト経費まで大きく削減されるとなると、それはちょっと話が違うんじゃないの、と思うわけです。
このブログでは、2年前にイギリスで天文学・素粒子物理学の予算が大きくカットされたという話題を取り上げました(2007/11/22、2007/12/30、2008/1/31)。このときは、イギリスの科学技術を管轄するScience and Technology Facilities Council (STFC)が、イギリスも参加して国際協力で運営されているジェミニ望遠鏡への資金協力ストップも含め天文学全体予算の最大25%を削減するかもしれない、という話でした。関連する研究者たちが "Save Astronomy"というサイトを立ち上げ、国会議員へのメッセージを送ることを呼びかけたりしていました。結果的にはジェミニへの参加は継続されていますが、いくつかの小さなプロジェクトはストップされてしまいました。
もちろん使えるお金は有限なので、何が何でも予算をつけろとは言いません。2年前のイギリスの場合は、STFCが天文プロジェクトひとつひとつに対して審査を行って、評価が低いものは予算削減、という方針でした。削減の宣告が突然かつ掲げた削減額が大きすぎて上記のような混乱がありましたが、各プロジェクトに対しての評価をもとに予算額を決めるという手法自体は、間違ったものではありません。しかし今回の事業仕分けでは、ビッグプロジェクトについては十分な審査・評価もされないまま他の事業とまとめて「削減」となっています。仕分け委員の皆さんも、全体としては「科学研究は重要である、だから無駄をなくして本当に有効にお金が研究に使われるようにしたい」というようなことを仰っていてそれはとてもありがたいのですが、実際に特別教育研究経費の仕分けの結論として出て来たのはそういう方向では無くて、議論されないままに「研究に使われるお金」が削られるという恐れです。ここがこの問題の大きなポイントです。
上に挙げたイギリスの件を取り上げたブログ記事で、僕は
しかし日本ではありえないかといえばそうとは限らないわけで。天文学が社会の中でどういう位置を占めて、どれくらいのお金を使ってもよいか、しっかり考えて、議論して、多くの人と合意を形成しておく必要がありそうです。(2007/11/22)
イギリスの一般の人たちの間でこの問題がどれくらい意識されているのかはよくわかりませんが、「国民みんなの科学」のありようが問われる、といっても過言ではないかもしれません。もし日本で同じ状況が発生したとき、研究者コミュニティは何ができるのだろう、と考えるとなかなか恐ろしいものがあります。(2007/12/30)
と書きました。同じような予算カットの危機がまさか2年後に日本に到来するとは全く思っていませんでしたが、上に挙げた点というのはいまの日本でも考えていかないといけないことでしょうね。
投稿者 平松正顕 : 21:53
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2009年12月4日
事業仕分けに関する日本天文学会の声明
このブログでも11月21日に話題にした行政刷新会議の事業仕分けについて、日本天文学会が「国民の皆様へ 事業仕分けと科学研究の将来について」と題した声明を出しています。科学政策ニュースクリップにも、多くの大学や学会からの声明がまとめられています。
天文学会の会員だからというわけでもないですが、僕はこの声明に全面的に賛同します。「研究は大事だ」と頭ごなしに言うのではなくて、研究者コミュニティでも改めるべきところがあれば改め、要望するところはきちんとデータに基づいて要望する、という形になっています。この声明文は、菅副総理や文部科学大臣、民主党の国会議員の皆さんに送付されたとのこと。声明文の中にある 『削るべき「無駄」とともに、貴重な「宝」まで捨て去られようとしています。』という危機が回避されることを願います。今後の経過にも要注目です。
投稿者 平松正顕 : 22:19
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2009年12月2日
宇宙とヒトをつなぐもの
12月になってしまいました。世界天文年2009もあとひと月。早いですねぇ。
明けて2010年1月17日に、下記のようなイベントが開催されます。
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科学と芸術の集い『宇宙とヒトをつなぐもの』
−古代〜最新の宇宙図と南島の神歌・古謡−
2010年1月17日(日) 16:00開場 17:00開演
会場:日経ホール 入場無料 (自由席) 事前申込み制 (先着順580席)
[第一部:最新の宇宙の姿] 講演
小阪淳(美術家)、小久保英一郎(天文学者)
[第二部:古代の宇宙観] 講演
後藤 明(文化人類学者、考古学者)
[第三部:神歌・古謡のコンサート]
UA(歌手)、ハーニーズ佐良浜(from 沖縄伊良部島)
ナビゲート・ナレーション
原田知世(女優・歌手)
主催:独立行政法人科学技術振興機構(JST)
企画制作:エピファニーワークス
後援:文部科学省、国立天文台、東京大学 科学技術インタープリター養成プログラム
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と宣伝しようと思っていたらなんと! もう申し込みが定員に達していました。告知開始・ウェブサイトオープンからわずか5日という驚きのスピードで席が埋まったようです。遅くなってしまって申し訳ないです。
このイベントのベースは、僕たち天プラのメンバーも深くかかわった文部科学省発行の「一家に1枚宇宙図2007」です。ガリレオが望遠鏡で宇宙を初めてのぞいてから400年の間に人類が解き明かしたこの宇宙の成り立ちと仕組み、そして私たち人間と宇宙との関係を1枚の図にするというたいへんチャレンジングな企画でした。一瞥して全部わかってしまうようなものではなくもっと深い思索へといざなうものにしたいという思いがありましたので、正直言ってかなり難しいものになったと思います。「難解すぎる」というお言葉もたくさんいただきました。今回、このような形で一家に1枚宇宙図をも含んだ形で改めてイベントが開催されるというのは、たいへんありがたいことだと思います。
今回のイベント、いくつかのニュースサイトに出たとは言っても告知開始から5日で580名の定員が埋まるということになりました。天文系のウェブページではあまり告知を見かけなかったので、申し込んだ方の多くはUAさんのファンの方とか、音楽系の方なのかもしれません。そういう方にも是非、科学の視点で見る宇宙の姿を知り、それを楽しんでもらえるきっかけになればいいな、と思います。
科学を文化に という言葉はいろいろなところで耳にするのですが、どのような状態になればそれが実現されたと言えるのか、というのは大変難しい問題です。今年のサイエンスアゴラでもこのことに関わるシンポジウムが開催されたと聞いています。僕としては、そのひとつの答えが今回のようなイベントなんじゃないかな、と思っています。現代科学の視点で現代のヒトが見ている宇宙、現代以前の人々がそれぞれの時代の宇宙観で見て来た宇宙、そして科学ではなく芸術の視点でとらえた宇宙。これらが混然一体となって次の時代の宇宙観を作っていく。これが、科学が文化になる、ということであり、事業仕分け以来話題になっている基礎科学の「リターン」であると思うのです。
科学の営みは、小さな発見の積み重ねです。僕が研究しているテーマも、先日投稿した論文も、世界を理解するという大きな枠組みから見ればごく小さなものに過ぎません。そして、個々の研究に没頭していると大きなストーリーを見逃しがちになるのも事実。科学は、積み重なった小さな発見に、時としてあらわれる天才的な研究者がもたらす大きなジャンプが組み合わさって、ここまで進歩してきました。宇宙の理解という面での科学の進歩を概観し、そして科学以外の方面からの宇宙の捉え方も一緒に楽しむことができる、このイベントはそんな機会を与えてくれるものだと思います。
このイベントには、天プラでも展示物などで協力します。先に書きましたように、今回は既に定員に達してしまっているということですのでここで皆さんに参加を呼び掛けることができないのが申し訳ないのですが、同様にいろんな視点で宇宙を楽しめるイベントがこれからも開催されていくといいな、と思っています。
投稿者 平松正顕 : 00:29
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2009年11月21日
基礎科学の「リターン」と事業仕分け
政府の行政刷新会議が行っている事業仕分け、科学界にも大きな影響を与えています。次世代スーパーコンピュータやGXロケットについての計画大幅見直しをはじめ、日常的に科学研究を支える研究費にも予算削減という提言が出ています。
幸いにもインターネット中継を見ることができ、さらにはtwitterで多くの方がリアルタイムに事業仕分けについて議論を交わしていたので、台湾からでもその様子はよくわかりました。むしろ、一部分だけを切り取ったような新聞やテレビの報道に接する機会が少ない分、あまり偏見のない目で(もちろん科学者からの視点というのは避けられませんが)事業仕分けを見ることができている気がします。
この事業仕分け、特に科学プロジェクトの大幅見直しや科学研究費の削減に対して、研究者個人や学会から様々なアピールが出ています。ここには述べませんが、かみ合ってない議論から納得できない結論が出されてしまった事案もあったので、研究者や学会からのアピールが出るのも当然だと思います。これを機に分野を横断した研究者のネットワークを作り、ロビー活動も広報活動もしっかり行っていこうという話も出ています。「ショック療法」という言葉も出てきたりしますが、まさにこれを機に科学と社会の関係がもう一段深くまで議論されるようになるかもしれません。
そういったある種政治的な活動も重要ではあるのですが、僕としてはやはり地道に基礎研究の意義を多くの方に理解してもらえるような活動をしっかり続けていくのが大事だと思っています。仕分け中継を聞いているときに、僕がtwitterで
この議論を見て科学者コミュニティがこれからどうすべきか考えよう。研究するのはもちろんだが、経済効果以外の研究の意義や魅力をしっかり伝え、人の心を動かしていかなくては。その「心の動き」こそが基礎科学の人類全体へのリターンであるはず。 #shiwake3
という発言をしたのですが、10人程度の方がさらに転送(ReTweet)をしてくださったので、ある程度同意してくださる方もいたんだろうと思います。この発言は、仕分け人である蓮舫さんが「基礎研究が進展して、納税者である国民はどんなリターンが得られるのか?」と質問したのを受けてのものです。twitter上では「科学にリターンを求めるなんてわかってない!」という反応も多くありましたが、冷静に考えてみるとこれは至極もっともなご質問だと思います。文科省の方がこの質問にどこまで答えられるべきかわかりませんが、少なくとも研究者であればなにがしかの答えを持っているべきでしょう。
このリターンを多くの方に理解してもらうために、各地で行われているサイエンスカフェをはじめとする科学イベント、研究所や大学の取り組みなどの情報をうまく共有して、科学と社会のいい関係を作っていく仕組みができるといいと思います。そのためにも、科学者一人一人が社会との関係をきちんと認識する必要だと思います。文章を書いたり人前で話したりすることに対しては、もちろん人によって得意不得意があるでしょうから、科学者全員が最前線に立って科学コミュニケーションをやるべきとは思いません。内部でバランスを取りながらコミュニティ全体として役割が果たされてればいいと思います。ただし、そういう活動を無駄だと言ったり蔑視したりする研究者が残念ながら少しいらっしゃるのも事実ですが、そんな意識の研究者はもう生き残れない、ということです。こういった活動では科学者が前面に立つべきですが、それはもちろんプロのサイエンスライター・科学コミュニケーターと呼ばれる人たちがいらないと言っているわけではありません。上手く力を合わせて(単にどっちかがどっちかを利用する、というのではなく)最大限に効果的な活動にしていくことが大事でしょう。
僕たちがやっている天プラの活動の方向は、その意味でも間違ってなかったなと思います。ちょっと長くなるので天プラの活動についてはまた機会を改めて書こうと思いますが、『様々な専門性を持つ人が力を出し合って天文学の面白さを伝え、多くの人と一緒に天文学を楽しむ』というのが天プラの基本理念です。様々なところでいろいろな方たちの協力を得ながらやってきた天プラの活動を通して、天文学の研究内容そのもののみならず天文学(あるいは科学全体)の魅力や意義まで含めて多くの方にご理解いただけるきっかけになってきたと自負しています。たとえば、文科省が2007年に出した「一家に1枚宇宙図2007」の製作に関わる機会を得ましたが、読んで感動した、世界観が変わった、作ってくれてありがとう、そんな声をたくさんいただきました。そういう声はすぐには統計情報として出てこないですしそれで経済が上向くわけでもないですが、そう言ってくださった方々の世界を少しだけ豊かに楽しくできたかな、と思っています。天文学は美しい天体写真を提示することができて、それはそれで芸術品と同じようにとても価値の高く世の中を豊かにするものだと思いますが、その画像から研究者が導き出した様々な事実が多くの方に認知され、その方々の心を動かし、人類が持っている宇宙観や世界観をゆっくりではあるけれども着実に変えていく、そんな力が天文学を含む基礎科学にはあると思うし、それこそが「基礎科学のリターン」であると思います。
「予算が削られるこの緊急事態にそんな悠長なこと言ってられない」という声もあろうかと思いますが、それは「予算がないから成果が出るのに時間がかかる基礎科学は後回し」と言っているのと同じです。明日の生活を豊かにする技術開発が明後日の生活を豊かにする基礎研究と等しく大切であるように、削減されてしまいそうな予算の回復のための政治家や官僚へのロビー活動と同じかそれ以上の労力をかけて、基礎科学の魅力と意義を根本的なところから伝えていく必要があります。「だから基礎科学は大事なんです!」と直接的に説くのではなく、あくまでも面白い研究の結果とそこから導かれる事実の興味深さを地道に伝え、多くの方と一緒にその研究の成果を楽しむ、そんな姿勢がいいのではないかと僕は思っています。
投稿者 平松正顕 : 19:33
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2009年11月15日
観測提案受理と論文投稿
しばらく間をあけてしまいました。いくつかブログに書きたいトピックもあったのですが、ちょっと忙しかったこともあって、文章をかけていませんでした。幸い研究の方も忙しいのはひと段落したので、これからまた書いていこうと思います。今回は、先日採択されたハワイ・マウナケア山頂にあるサブミリ波干渉計(SMA)への観測提案の話と、3年前に観測したデータをもとにした論文を論文誌に投稿しました、というご報告。
僕が専門としている観測天文学というのは広い意味では実験科学に含まれるのですが、日々実験(観測)しているわけではありません。天文学者と言うと日常的に天体観測しているというイメージもあるかもしれませんが、それも違います。僕の場合、直近の1年間で自分の研究として望遠鏡でデータを取得したのはせいぜい2週間くらいでしょう。僕の博士論文に使ったデータも、5年間の中の合計2ヶ月くらいで取得したものです。そうして集中的に取ったデータを時間をかけて解析し、共同研究者と議論しながら論文を書き上げる、というのが観測天文学者の典型的な研究サイクルとなります。
このサイクルの起点となるのは、世界のいろんなところにある望遠鏡に対して観測提案を作成し提出することです。そのためには自分や他人のこれまでの研究状況を整理し、何が解明されていなくてどんな観測を行えば解明できるか、というのを考える必要があります。そして観測提案書(プロポーザル)に、「こういう重要な謎があって、これを解明するためにこの望遠鏡を使いたい。この観測によってこのようなことがわかり、これは天文学に対してこういうインパクトがある。」ということを数ページにわたって記述するわけです。世界中の望遠鏡がこういった観測提案の募集を年に数回していて、世界中の天文学者が各自の研究テーマに応じて観測提案を送るわけです。観測提案を全世界から受け付けているところもあれば、観測時間の一部を自国の天文学者に優先的に割り当てているところもあります。競争率は天文台によっても違いますが、典型的には2倍から5倍といったところでしょう。
今回採択されたのは、ハワイ・マウナケア山頂にある電波望遠鏡、サブミリ波干渉計(SMA)に対して9月に提出した観測提案です。SMAは、アメリカのハーバード・スミソニアン天体物理学センター(CfA)と僕の所属する台湾中央研究院天文及天文物理研究所(ASIAA)が共同で運用する電波天文台です。今回、観測時間を得るための倍率はだいたい3倍だったそうで、今回の提案が受理されたのは提案作成段階で議論をしてくださった共同研究者の皆さんのお力も大きく、感謝しています。SMAは当日の天候によってダイナミックに観測を割り当てるので、僕の観測が実際に実行されるかどうかは天候に依存します。ですので実際に観測データが得られるまでは安心できないのですが(とはいっても相手は天気なので心配しても仕方ない)、データが届くのを楽しみに待ちたいと思います。
その採択の連絡が来た2日後には、これまでやってきた別の研究をそのまとめに相当するところまで進めることができました。以前野辺山宇宙電波観測所の口径45m電波望遠鏡で観測したデータをもとにした論文を、アメリカ天文学会の論文誌 The Astrophysical Journal に投稿したわけです。このデータは2006年4月に2週間野辺山に滞在して行った観測で得られたものです。この時はちょうど日本学術会議が音頭を取って行われた全国でのサイエンスカフェの一環として、倉敷の大原美術館でのサイエンスカフェを天プラとして計画していたころでした。せっかく僕の故郷でイベントができることになったのに本人は観測出張で会場にいけない、という何とも残念なことになってしまったのですが、その時のデータをようやくまとめることができました。時間がかかってしまったのは、このデータは博士論文には盛り込まなかったので、博士論文の準備をしていた1年間ほどの間は完全に脇に置いておいた状態だった、というのもひとつの理由ではあります。本格的に論文としてまとめ始めたのは、最近1年くらいでしょうか。この間、筆頭著者である僕と共著者お二方との間での論文原稿改訂は10回を超え、これまで自身の研究ではあまり足を踏み入れていなかった化学的な側面(宇宙でも多彩な化学反応が起きています)についても盛り込むことになりました。論文は最初は一人で書くのですが、やはりそれだと独りよがりになっていたり説明が不十分なところがあったりするので、こうして共著者との議論を根気よくたくさん重ねることで、しだいによい文章になっていきます。一般に科学的な言説というのは、こうして共同研究者や時にはライバルとの厳しい議論を耐え抜いているからこそ一定の信頼が得られるものです。議論には大変労力を使うのですが、これがあるからこそ科学が科学として一歩ずつ進んでいくことができるわけです。とはいえやっぱり時間かかりすぎなので、スピーディーに論文をまとめる術を少しずつでも身につけていきたいと思っています。もちろんこれから論文の査読者がいろいろとコメントを送ってくるので、査読者がOKというまで(論文が受理されるまで)きちんと対応しなくてはいけません。その意味ではまだ一段落というには早いので、とりあえず一段落の前の小休止、というところでしょうか。
研究はいろいろ並列して行っているのですが、いろんなデータをためているだけではいけません。きちんと論文化、いわば消化していかないとデータがたまる一方で消化不良を起こしてしまいます。そういう意味では、観測提案が採択されるのとほぼ同時に論文を投稿できたというのはいいタイミングだったと思います。ハワイの天候が安定して、無事に観測データが届くように祈りながら、別のデータの解析を進めていこうと思います。
投稿者 平松正顕 : 22:19
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2009年10月12日
What will your great discovery be?
先日のエントリで取り上げたホワイトハウスでの天体観望会、オバマ大統領のスピーチの全体を収めたビデオがYoutubeのNASAtelevisionチャンネルに出ていました。
観望会には地元の中学生が招待されたとニュース記事には出ていましたが、その他にも大勢のゲストがいたようです。NASAのボールデン長官、アポロ11号のバズ・オルドリン、アメリカ人女性初の宇宙飛行士となったサリー・ライド、ハッブル宇宙望遠鏡修理に参加した飛行士もいたようです。
"NASA's equipments are pretty powerful stuff, but Astronomy also depends on the curiosity and contributions of amateur astronomers. もちろんNASAの望遠鏡は強力だが、天文学はアマチュア天文家の好奇心と多大な貢献にも支えられている" というオバマ大統領の言葉の後、二人のとても若いアマチュア天文家が紹介されます。弱冠14歳で最年少超新星発見者となった中学生、アメリカ国立電波天文台のデータから新天体を見つけた高校生。世界最大の可動型電波望遠鏡GBTでの観測データを高校生にも協力してもらって進める、というプロジェクトがあるそうで、この高校生はこれに参加していたとのこと。これまでに30個ほどしか見つかっていないとてもレアな天体(rotating radio transient)だそうです。
これを受けてのオバマさんの言葉。
Now, if they can discover something great, so can any of you other students who are here tonight. All you need is a passion for science.
彼らが成し遂げられたのなら、ここにいる君たちだれでもが同じような発見をすることができます。必要なのは科学に対する熱意です。
(中略:ガリレオの活躍やアメリカの科学・高等教育政策についてちょっと述べて、でも君たちが主役だよ、と言った後に)
It'll take your sense of wonder, your passion, your persistence, your willingness to dedicate your lives to the pursuit of discovery. And it's going to take some hard work.
不思議だと思う心、科学への熱意、こだわり、意欲を持ち続け、人生を賭して発見を追い求めてください。そしてそれには努力が必要です
研究者の僕にとってもたいへん重い言葉です。
あいさつの後、大統領科学顧問、物理学者のJohn Holdren氏ハーバード大教授が、世界天文年オフィシャルパートナー、セレストロンの望遠鏡で捉えていること座のダブルダブルスターについて説明し、オバマ夫妻がこれをのぞいています。煌々と照明がたかれた中で望遠鏡をのぞくのはちょっと大変だと思うのですが、オバマさんたちはちゃんと見えたのでしょうかね。「こりゃ遠いなぁ」とか言ってますが。
スピーチの全文はこちらにありましたので、英語の勉強がてら聞いてみるのもいいと思います。
投稿者 平松正顕 : 00:04
| 世界天文年2009
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