「月食 ~月を食べたのは誰?~」 今宵、夕方ごろ、東の低い空に欠けた月が見えるかもしれません。 今夜、今年2度目の部分月食があります。部分月食は月の一部が欠けて見える現 象ですが、月の出のすぐ後、19時16分から始まり、最も欠けるのが20時38分、そ して22時ちょうどで終わります。月食は、太陽・地球・月がこの順番で一直線に 並び、地球の影に月が隠されたときに起こる現象です。そのため、月食は満月の 夜だけに起きます。ただし、満月だからといって必ず月食になるわけではありま せん。なぜ満月の夜にいつも月食が起きないかというと、月が地球を周っている 面と、地球が太陽を周っている面が少し傾いているため、一直線に並ぶことが少 ないからです。そのため、ほとんどの場合は月食の起こらない満月になるのです。 昔の人は、そんな月や地球の動きは知るよしもなかったようです。そのため、日 食や月食といった現象は畏怖や尊敬の念から様々な神話が残されました。インド にはラーフという首だけの化け物が太陽や月を食べる時に日食・月食が起きると いう神話、韓国には太陽や月をくわえて盗もうとしている犬の神話があります。 このような神話や、月『食(蝕)』という言葉が示すように、食べられたという印 象はアジア圏では広く受け入れられたようです。 少し前、小惑星探査機「はやぶさ」が帰ってきて話題になったばかりですが、も ちろん月にも日本の探査機を送っています。その名も、「月周回衛星 かぐ や」。月は地球から38万キロほどの距離にあるお隣の天体ですが、実はまだ分 かっていないことも多く、「かぐや」は詳細な月面地図や、大量の科学的データ を地球に送ってくれました。そして、2009年6月11日、運用を終えた「かぐや」 はそのまま月へ帰すように制御落下させました。 今夜、科学の結晶である「かぐや」姫が帰っていった月が欠けます。 その姿、あなたには化け物が食いついたように見えますか?犬が噛み付いたよう に見えますか?それとも・・・?  日下部 展彦  自然科学研究機構 国立天文台(NAOJ) 研究員