★☆★☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ [3]【コラム】時を越える月への眼差し ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆★☆ 月。私たちが暮らす地球に最も近いこの天体を、あなたは普段意識することがあ るだろうか。夕焼け空に浮かぶ細い月、夜更けに輝くまるい月、青空に浮かぶ白 い月。いろいろな表情を見せるこの天体に人類は古来より様々な想いを投影し、 物語を紡ぎ、ついには実際に降り立った。 月は、時の流れを示す目印としても親しまれている。わかりやすく規則正しい満 ち欠けを繰り返す月は農業に必要な暦を定める上で格好の材料となったし、漁業 に関わりの深い潮の満ち干は、それが月の重力によるものだと認識される前から 月の位置をもとに予報がなされていた。日本で満月(十五夜)の翌々日以降の月 を「立待月」「居待月」「寝待月」と呼ぶのも、日に日に月の出が遅くなり、日 没後ちょっと立っているうちに/座って待っているうちに/待ちきれなくて寝てい ると月が出てくる、という経験に基づいた時間感覚をうまく表現したものと言える。 翻って現代では、科学の目も月に注がれている。17世紀初頭、ガリレオ・ガリレ イによって初めて望遠鏡が月に向けられて以来様々な観測がなされ、無人探査機 の時代を経てアポロ計画で人類はその天体に降り立った。月のまわりを飛び回っ て地形を詳しく調べ、月震計を置いて月の地震を測り、そして月の石を持ち帰っ た。その後、莫大なコストとリスクが避けられない有人探査から再び無人探査へ と時代は移り、日本の「かぐや」、インドの「チャンドラヤーン」、アメリカの 「ルナー・リコネッサンス・オービター」、中国の「嫦娥(じょうが)」が月の 地形・地質調査を行い、特に月面基地建設に重要な水の探索に力が入れられてい る。月の北極地方の地下に大量の氷が存在しているという研究結果も報告され、 今後の月探査もさらに華やかさを増していくことだろう。 こうして科学の目が明らかにしてきた月の新しい姿を前に、現代の、あるいは未 来の人類は、どんな物語を紡ぐだろうか。詩? 歌? 小説?SF? あるいは何か 新しい言葉が生まれるだろうか。昔から変わらない白い輝きを浴びながら、今の 月世界に想いを馳せる。そんな秋の夜長もいいかもしれない。 平松正顕 台湾 中央研究院天文及天文物理研究所 博士研究員