★☆★☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ [2]【コラム】Ia型超新星と宇宙膨張 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆★☆ 今を遡ること1000年前、1006年の春、突如として夜空に明るく輝く星が出現しま した。夜を重ねる毎に明るくなるその星は、出現から10日ほどたって明るさの ピークに達しました。その時の明るさはマイナス9等星。宵の明星、明けの明星 として有名な金星のおよそ100倍の明るさで、昼間でも見ることができたと言い 伝えられています。夜空に突然現れる「客星」として記録されたこの星の正体 は、今では特殊なタイプの超新星、Ia(いちえー)型超新星だったことがわかって います。 今年のノーベル物理学賞は、このIa型超新星の性質を利用して、宇宙が加速的に 膨張していることを発見した研究者らに贈られました。宇宙はどんどん膨らんで いる、しかも加速しながら…!いったいなぜ、そのようなことがわかるのでしょ うか。 実は、Ia型超新星には、宇宙のどこに出現したものを見ても、真の明るさはほぼ 一定であるという性質を持っています。したがって、遠くの宇宙に出れば出るほ ど見かけの明るさは暗く、近くの宇宙に出れば出るほど見かけの明るさは明るく なり、見かけの明るさから距離を推定することができます。明るさの揃った街灯 が一直線に並んでいる時、遠くの街灯ほど暗く見えますが、それと全く同じアナ ロジーで距離がわかるのです。冒頭に紹介した超新星は、私たちの住む天の川銀 河の中、わずか7000光年の距離で起きたものだったので、非常に明るく見えたの です。 このようにして超新星までの距離を測定し、合わせてその超新星がどれほどの “速度”で遠ざかっているかがわかると、その超新星と私たちの間にある空間がど れほどの割合で膨らんでいるのかがわかります。その結果、宇宙は勢いを増しな がら膨張しているということが発見され、今回ノーベル物理学賞につながりました。 この加速的な膨張を説明するためには、宇宙に存在する全エネルギーのうち7割 が空間を膨張させる力を持ったエネルギーだと考えねばいけません。その正体は 未だに不明で、仮にダークエネルギーと呼ばれています。このダークエネルギー の正体を突き止めることが、現代物理学の重要なテーマのひとつとなっています。 1000年前の夜空に出現したIa型超新星。その後もいくつかの超新星が観測されま したが、1600年代以降は、肉眼で見える超新星の出現がありません。いつの日 か、ふたたび夜空に超新星が輝く夜がやってきます。東京の夜景を煌々と照らす 超新星、そんな画に出会える日が楽しみです。 高梨 直紘 天文学普及プロジェクト「天プラ」代表 / 東京大学 特任助教