★☆★☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ [2]【コラム】月が鏡であったなら… ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆★☆ 突然ですが、皆さんは写真や映像ではなく、自分の目で丸い地球を見たことはあ りますか? そんなこと一度たりともない!と思われるかもしれませんね。たしかに、宇宙に 行かないと丸い地球は見られないと思ってしまいます。ところが、そんなことは ありません。丸い地球を見る、というと語弊があるかもしれませんが、地球が丸 い、ということをその目で確かめることはできるのです。 それができるのが今年の12月10日の夜。この日、午後9時45分過ぎから月食が起 こります。月食というのは、月が地球の影に入って太陽の光が当たらなくなるた めに、地球から見ると月が欠けて見える現象です。月に落ちているのは地球の 影…ということは、月食のときの月の欠け際の形、それこそが地球の形というこ とになります。地球の直径は月の4倍あり、その影も月より大きくなりますか ら、月にかかっているのは地球の影のほんの一部です。月食のときの欠け際=円 弧の一部を頭の中で伸ばしていくと…地球の形が想像できますね。「月が鏡で あったなら…」という歌が昔(大昔?)ありましたが、まさに月は地球の姿を映 し出す鏡でもあるわけです。 今回の月食は、月がすっぽりとすべて隠される皆既月食になります。月が皆既と なるのは23時5分過ぎから。50分ほど月がすべて隠された皆既の状態が続きま す。この時、ぜひ注意して月を眺めて下さい。だんだんと月が欠けていって、す べて隠れたかな…と思った皆既食の始まりの瞬間、すべて隠されたはずの月がな ぜかぼんやりと赤銅色に光って見えるのです。地球の影に覆われたはずの月がな ぜ見えるのでしょう。しかも赤く光って…。 これも、実は地球のせいなのです。地球は大気で覆われています。太陽の光が地 球の大気に入ってくると、大気によって光が曲げられ地球の裏側まで届くように なります。月食のときに月の欠け際をよ~く見てください。輪郭がくっきりとし ていないはずです。これは、地球の大気を通った太陽の光が、少し弱くなって月 に届いているからです。反対に大気がない月が太陽を隠す日食のときは、欠け際 の輪郭がくっきりしています。 (来年5月21日に日食がありますから、比べてみてくださいね。) さらにここでも月は地球の「鏡」になります。皆既食のときに月がどれだけ赤く 見えるのかは、地球の大気の状態によります。そもそも赤い光だけが月に届くの は、地球の大気中にうかぶ塵などで青い光が散らされてしまうからです。しか し、大気中の塵の量が多いと赤い光ですら届かなくなってしまい、皆既中の月の 色が赤黒くなってしまったり、まったく見えなくなってしまったりするのです。 大気中の塵の多くは火山噴火によってまきあげられた火山灰です。ですから、月 食の前に大きな火山噴火があるなしによって皆既食中の月の色は大きく変わりま す。1991年にフィリピンのピナツボ火山が20世紀最大と言われる噴火をした翌々 年の月食では、皆既中、まったくと言っていいほど月が見えなかったそうです。 果たして今回の月食はどのように見えるか…。12月10日、皆さん自身の目で、ぜ ひ確かめてみてください。 塚田 健 平塚市博物館 学芸員