★☆★☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ 【コラム】赤い惑星に同胞を想う ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆★☆ 赤く不気味に光る火星。その見た目の色が血を連想させることから、ローマ神話 における戦争の神マルスの名がつけられたと言われています。火星は、8つある 惑星の中でももっとも人類の興味を掻き立ててきた惑星かもしれません。それ は、地球以外に生命が住む惑星があるのか?という問いに対する挑戦でもありま した。 19世紀終わり、イタリアの天文学者スキアパレリは望遠鏡で火星を観測し、詳細 な火星の地図を作ります。そこには線のような暗い模様が描かれていました。イ タリア語でcanali(溝)と呼ばれたこの暗線は、後に運河(英語でcanal)だと誤 訳され、火星には運河を作るほどの知的生命体がいる、という説が広まってし まったのです。多くの天文学者たちが、運河が実在するかどうかを確かめようと 火星の観測を行いました。特にP.ローウェルは私財を投げ打って私設天文台を作 り、「火星人がいる」と信じて観測を行ったと言われています。1898年にはH.G. ウェルズがSF小説『宇宙戦争』を発表、1938年にはラジオドラマ化されパニック が引き起こされたと言われるほど、火星人の存在は人々の間に信じ込まれていた のです。 しかし地上から観察している以上、地球の大気に邪魔をされ火星表面を詳しく調 べることはできません。火星という惑星がその詳細な姿を私たちの前に現わした のは1960年代、探査機が火星へ飛ぶようになってからです。初めて火星に近づい たのはマリナー4号。火星のほんの一部分しか撮影できませんでしたが、写って いたのはクレーターが点在する風景。人工的に作られた運河は火星にはなかった のです。しかし初めて火星の周りを回った探査機マリナー9号は、火星表面に水 が流れた跡のような地形を発見しました。大昔の火星には表面に水があったと推 測され、知的生命はいなくても微生物であればいるのではないか、と考えられる ようになってきたのです。その期待を一身に受けて火星に着陸したのがヴァイキ ング1号と2号。ところがヴァイキングの探査では微生物を発見することはできま せんでした。 その後も火星には次々と探査機が送り込まれています。水が流れた跡だけではな く、地下には大量の水が氷として存在している可能性が高いことも明らかになり ました。2012年2月、探査機マーズ・エクスプレスによって、火星の北半球がか つて広大な海に覆われていた証拠が発見されたという発表がありました。近い将 来、火星に生命が存在することが明らかになる日が来るかもしれません。3月6日 には火星が地球に小接近し、今春はふだんより明るく輝く火星を夜空に見ること ができます。火星を見上げながら、そこにいるかもしれない同胞に思いを寄せて みてはいかがでしょうか。 平塚市博物館 塚田健