★☆★☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ [4]【コラム】太陽系を旅するタイムカプセル ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆★☆ ほうき星とも呼ばれる太陽系の放浪者、彗星。突然夜空に見え始め、尾をたなび かせるその姿から、古代から王の死や大災害の前兆とも考えられてきました。日 本でも大彗星の出現が不吉なことだと考えられ、改元(元号が変わること)した ことがありました。日食と同様、大彗星の出現は多くの記録が残っています。 今年、そのような彗星のうち、二つが地球から明るく見えるだろうと言われてい ます。そのうちのひとつが、3月10日に太陽に最も近づき、その後、地球から見 やすくなるパンスターズ彗星(C/2011 L4)。当初の予報よりは明るさが落ちて いますが、それでもここ数年の間に地球に近づいた彗星の中では明るく見やすい もののひとつになりそうです。 彗星はよく“汚れた雪だるま”と呼ばれています。水や二酸化炭素、アンモニアな どが凍ったものに岩の欠片のような塵粒が混ざっている直径数キロメートルの天 体・・・それが彗星の正体です。太陽に近づくとその熱で氷は融け、ガスとなり ます。そのガスと氷に混ざっていた塵粒は太陽風に吹かれて飛ばされていく… こうしてひろがったのが彗星の尾なのです。ですから、彗星の尾は彗星の進行方 向に対して逆側に伸びているとよく誤解されますが、彗星の尾は太陽の反対方向 に伸びているのです。 この彗星を作っている氷や塵は、はるか昔、惑星たちを作る素となった微惑星の 名残り。惑星は生まれて間もない太陽の周りに広がるガス円盤のなかで作られま すが、太陽から遠いところでは塵やガスは惑星へと成長できません。46億年もの 長い間、太陽系の果てで冷凍保存されてきました。それが何かのきっかけで太陽 へ近づき私たちの前に尾をたなびかせた彗星として現れる。彗星は言ってみれば 太陽系の過去を知ることができるタイムカプセルなのです。太陽系の果てには、 無数の氷の小天体が太陽系を包み込むように存在していると考えられています。 これが“オールトの雲”。その存在はいまだ直接的には確認されていませんが、 太陽系の外縁にはたくさんの彗星の“卵”たちがあり、太陽に近づくときを静かに 待っている、そのことは確かです。 パンスターズ彗星が太陽に近づくのは今回が初めて。いったいどのような情報を 私たちに届けてくれるのでしょうか。 3月10日に太陽に最も近づいたあと、パンスターズ彗星は日没後の西の空低いと ころに見えるようになります。彗星はボーっと広がった姿をしていますから、日 没後すぐのまだ明るい空の中に見つけるのはなかなかに難しいかもしれません。 しかし、彗星との出会いは一期一会。特にパンスターズ彗星は一度太陽に近づい た後、二度と戻ってこない軌道となっていると考えられています。2013年に生き ている私たちしか見ることができないパンスターズ彗星、ぜひその姿を目に焼き 付けておきましょう。 塚田 健 平塚市博物館