★☆★☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ [4]【コラム】七夕に空の深さを思う ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆★☆ 6月も下旬、夏至を過ぎたばかりで昼が一番長い季節だ。東京でも日没時間は19 時を回り、ようやく空が宵闇に沈む20時頃、東の空には既に夏の大三角がすっか り昇っている。毎年このコラムでも紹介されている、七夕の星々だ。 「一年に一度、この日は本当に二つの星が近づくのですか?」と今でも素朴な問 いを向けられることがあると、半ばは微笑ましい気分になったりもするが、無 論、実際には遠く隔たった天体同士が突然位置を変えることなどは有り得ない。 星までの距離は、多くの場合「光年」という単位で表される。“light year”をそ のまま翻訳したこの単位は、光が一年間に進む距離を表す。およそ9兆5千億キロ メートル、と数字で聞いても、まァピンとは来ないが、さておき七夕の星々まで の距離を見ていくと、一番近いのが《牽牛》に相当するわし座のアルタイル。地球 から17光年の距離にある。《織女》こと座のベガまでは25光年、地球から離れている。 映画『コンタクト』(1997年)で、主人公の天文学者はベガからやって来る電波を 解析する。それはベルリン・オリンピックのテレビ映像だった。その中に、地球 外知的生命からのメッセージが仕組まれているのであるが、ともあれ、ベガまで 地球からの電磁波が到達するのに30年、そこから折り返されて30年、往復で60年 の時間を要するほど隔てられた距離をよく表している。ちなみに、現実のベガに は惑星が育ちつつある塵の円盤が発見されている。出来上がってくる惑星系は太 陽系に似たものになるかも知れないが、高度な文明を持つ“ベガ星人”が生まれる ことを望むには、まだ到底早過ぎる。 ところで、夏の大三角のあと一つの星、はくちょう座のデネブに至っては、1400 光年と桁違いの距離で輝いている。無数の星を川底の砂粒のように煌めかせる天 の川が、どれほど奥深い世界か。古より、孤悲の憐れを詠われてきた七夕二星 も、そうしてみればほど近い。何か誰かとの隔たりを感じた夜には、夜空の懐の 深さを思えば少し、安らかになるかも知れない。 ひさかたの 天つ印と 水無し川 隔てに置きし 神代し恨めし (久方 天印等 水無川 隔而置之 神世之恨 ―萬葉集 巻第十 二〇〇七) 内藤 誠一郎 天文学普及プロジェクト「天プラ」