★☆★☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ [5]【コラム】秋の歌舞伎者:おうし座流星群 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆★☆ 秋の星空は、ひと言でいえば地味です。数多くの1等星で飾られている夏や冬の 星空に比べて、秋の星空にある1等星はみなみのうお座のフォーマルハウトの み。注意して眺めないと、どこに星があるのかを探すのすら難しいかもしれませ ん。しかし、秋の星空を眺める楽しみが減じることはまったくありません。他の 季節にない特別なゲスト、おうし座流星群があるからです。 おうし座流星群?なにそれ?という方がほとんどだと思いますが、それがふつう です。ペルセウス座流星群、ふたご座流星群、しぶんぎ座流星群の、いわゆる三 大流星群に比べて流れ星の出現数は少なく、ピーク時でも1時間に数個程度。11 月初旬を中心に、2ヶ月程度にわたってぽつぽつと出現を続けるので、明確な ピークもありません。マスコミ的にも扱いづらく、世間でも話題になりにくいの だと思います。 そんなマイナーなおうし座流星群ではありますが、飛び抜けた魅力があります。 それは、火球です。火球とは、流れ星の中でも特に明るいものを指します。もの によっては、満月程度の明るさで輝くこともあります。いや、本当に。そのよう な火球が出現すると、一瞬ではありますが、周囲の景色がわかるほど明るくなり ます。 火球は頻繁に出現するものではありません。ふつうに暮らしていれば、一生に 1~2回程度出会えるかどうかだと思います。人によっては、一生出会えないかも しれません。しかし、おうし座流星群では、その火球が出現する率が高いので す。なぜか。 その理由は、おうし座流星群の起源と深く関わっています。ふつうの流れ星の正 体は、宇宙空間を漂う砂粒程度の塵が地球大気と衝突して、大気を発光させるこ とで起こります。このような塵は、彗星や小惑星などから放出されたもので、特 に彗星や小惑星の軌道上に集まっています。これらの塵の集まりに地球が突入す ることで、短い時間でたくさんの流れ星が流れるのが、流星群です。 おうし座流星群も、やはり彗星の通り道にばらまかれた塵に地球が突入すること でおこります。ふつうの流星群と違うのは、はるか昔に崩壊した彗星のかけらが たくさん漂っているらしいこと。小石大の塊も多く含まれていることで、砂粒程 度の大きさの塵が衝突して起こる通常の流れ星よりもはるかに明るい火球が出現 しやすくなるのではないかと考えられています。 秋の星空は地味ですが、侮ってはいけません。いつなんどき、火球が出現するの かわかりません。仕事帰りには、晴れている限り(周囲に注意を払いつつも)空 を見上げましょう。夜空を切り裂いて飛びゆく火球を目撃できるかもしれませ ん。ぜひ秋の星空を楽しみましょう。 高梨 直紘 東京大学 / 天文学普及プロジェクト「天プラ」