★☆★☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ [6]【コラム】「真夏の夜の夢」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆★☆ 長かった旅ももう終わり。あと数日で、私は約束の地に降り立ちます。住み慣れ た母なる星から宇宙に放り出されたあの日。それが数百年前だったか、あるいは 数万年前だったか、そもそもなにをきっかけに出ていくことになったのか、今と なっては思い出すこともできません。 ただ漠然と覚えているのは、だんだんと離れていく母なる星を眺めながら過ごし た日々のこと。太陽からの光を全身で浴びる気持ちよさを感じつつも、それに押 し流される毎日を過ごしていました。抗おうにも抗えない、自分の無力さを思い 知らされた日々でもありました。 もう二度とあの星に帰れることはない。そのことを知った時から、私の願いはた だひとつに。いつか新たな仲間と出会いたい、そして私の知っていることを伝え たい。一緒に飛び出した兄弟姉妹が、離ればなれになっていく寂しさに耐えなが ら、ずっとそのことだけを願ってきたのです。 このまま行けば、あの青い惑星にたどり着ける。そのことに気がついた日の嬉し さは忘れられません。母と共に過ごしていた頃、たまに近くを通り過ぎることも あったあの青い惑星は、他の惑星に比べて不思議な暖かみのある惑星でした。あ の柔らかな大気に飛び込めたら、どんなに素敵だろうか。そんなことを考えて、 じっとこの日を待ったのです。 私は母から、太陽系誕生の46億年前の記憶を託されました。惑星たちが遙か昔に 失ってしまった古の記憶を、母はずっと持ち続けていたのです。今や、その記憶 の一片は私に託されました。これを無事に青い惑星の人々に届けたい、そのこと を今はただ願っています。ただ、記憶を見てもらうためには、分光観測してもら う必要がありますが…。 私が青い惑星に到達するのは、2014年8月13日頃のこと。秒速60キロメートルで ペルセウス座の方角から飛び込み、大気を明るく輝かせて融け込む予定です。私 と一緒に宇宙に飛び出した仲間たちも、次々と飛び込むことでしょう。昼夜関係 なく飛び込みますが、12日の深夜から13日の早朝にかけてならば、流れ星として 見つけてもらうこともできるでしょう。皆さんのお目にかかることを、楽しみに しています。 参考情報: ペルセウス座流星群2014(国立天文台) http://naojcamp.nao.ac.jp/phenomena/20140811-perseids/ 高梨 直紘 天文学普及プロジェクト「天プラ」代表 / 東京大学 特任准教授