★☆★☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ [5]【コラム】「異国の星に想いを馳せて」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆★☆ 先月のコラムでは秋の星空にまつわる神話を取り上げましたが、神話はギリシア だけではありません。さまざまな国や地域にそれぞれの物語があり、同じ星でも 異なる名前で親しまれているのです。 例えば、夏の星座で有名なさそり座のアンタレス。沖縄地方のある島では、その 赤い色味からお酒に酔ったおじいさんという意味で「ビーチャー星」という呼び 名がついています。これから見頃を迎える冬の星座のひとつ、おおいぬ座のシリ ウスは、中国では天のオオカミ「天狼星」という名前で呼びます。 東南アジアの国、カンボジア王国の星の呼び名もユニークです。宵の明星として も有名な金星ですが、カンボジアでは「プカイ・チャオ」という名前で親しまれ ています。この「プカイ・チャオ」、翻訳すれば「どろぼう星」になるのです が、これには宵の明星が輝く頃、だんだんと辺りが暗くなってきたら、どろぼう に気を付けて、というメッセージが込められているのだそうです。 他にも、日本では「すばる」という名前で親しまれているプレアデス星団を、カ ンボジアでは「プカイ・コンムアン」(日本語では「ひよこ星」)と呼んでいま す。たしかに、点々と同じ場所に集まっているその姿は、群れをなすひよこを連 想させるかもしれませんね。ちなみにお隣の国タイでも、この星々は群がるひよ こに見立てて「ダオ・ロオク・ガイ」という名前で呼ばれていたりします。言葉 や文化が違っていても、見上げる星々からは同じイメージを受けるのですね。 このように、人は夜空の星々を眺めた時に、その見え方や色から何かを連想した り、生活上の知恵や教えを絡めたりして、星と親しんできたのです。秋の夜空で 語られるギリシア神話や、七夕の伝説のように有名な話だけではなく、世界中の 至る所で星にまつわる物語は育まれているのです。 六本木の夜空を見上げた際は、遠い異国で紡がれた星物語にも想いを馳せてみて ください。 福島 広大 法政大学 Libertyer元代表 天文学普及プロジェクト「天プラ」