★☆★☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆・‥…━━━☆ [4]【コラム】「宇宙に挑む新しい眼 アルマ望遠鏡」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆★☆ 濃紺の空、刺すような日の光、凍てつく強風、そして林立する望遠鏡群。日本で はおよそ体験できないようなこの場所が、現代天文学研究の最前線。そんな風景 が広がっているのは、日本との時差12時間、地球をぐるっと半周回った先のチリ 共和国、アンデス山脈の標高5000mに広がる砂漠のただなかです。 望遠鏡と言っても、人がのぞくところはありません。この望遠鏡は宇宙からやっ てくる電波を捉える「電波望遠鏡」なのです。そして電波と言っても、宇宙人か らの電波ではありません。星々の間にぽつぽつと浮かぶ「宇宙の雲」が放つ電波 をキャッチし、そこで何が起きているかを探っています。チリの大地に立つこの 最先端の望遠鏡の名は、アルマ望遠鏡。日本が20の国と地域と一緒になって開 発・運用する一大プロジェクトで、2011年から観測が開始されたばかりの新鋭な がら、宇宙の新しい姿を次々に私たちに見せてくれています。 アルマ望遠鏡が観測対象とする「宇宙の雲」の中では、星や惑星が作られていま す。私たちが住む地球も、日々私たちを照らしてくれる太陽も、そして私たち自 身を形作る様々な物質も、46億年前には宇宙をただよう雲の姿をしていました。 こうした雲が自らの重力で寄り集まることによって星や惑星が生まれます。アル マ望遠鏡は、「視力6000」(東京から大阪に落ちている1円玉が見分けられるく らい)という桁違いの性能でこの「宇宙の雲」を見つめ、星や惑星ができつつあ る様子をこれまでにないほど鮮明に描きだそうとしています。実際、昨年発表さ れた「おうし座HL星」という若い星のまわりを惑星の材料が回っている様子の画 像は、世界中の天文学者を驚かせました。「この星のまわりではどんなことが起 きているのか?」「別の天体を同じ視力で観測したら何が見えるのか?」多くの 天文学者が胸を高鳴らせながら、また頭を悩ませながら、アルマ望遠鏡を使って 観測することを心待ちにしています。 アルマ望遠鏡は、さらに一歩踏み込んで生命の誕生にも迫れるのではないかと期 待を集めています。私たちの体はタンパク質でできており、タンパク質はアミノ 酸でできています。このアミノ酸が宇宙に豊富に存在していれば、惑星にアミノ 酸が降り積もって生き物の「タネ」になるかもしれない、という考え方です。隕 石や彗星には既にアミノ酸が見つかっています。では、私たちが住む太陽系の 外、夜空に光る星のまわりにアミノ酸はあるのか? この謎にはまだ答えが出てい ません。しかし、アルマ望遠鏡ならアミノ酸が放つ微弱な電波も捉えることがで きると期待されています。 私はまだ天文学者になって日が浅いですが、これほどまでに「天文学が動いてい る」瞬間に立ち会えたのは幸運だと感じています。いや、アルマ望遠鏡はこれか ら何十年も「天文学を動かし続ける」のかもしれません。アルマ望遠鏡がどんな 宇宙の姿を描き出すのか、ぜひご注目いただければと思います。  アルマ望遠鏡  http://alma.mtk.nao.ac.jp/j/  アルマ望遠鏡が「視力2000」で見たおうし座HL星  http://alma.mtk.nao.ac.jp/j/news/pressrelease/201411067466.html 平松正顕 国立天文台/天文学普及プロジェクト「天プラ」