★☆★☆・‥‥━━━☆・‥‥━━━☆・‥‥━━━☆・‥‥━━━☆★☆ [6]【コラム】「見えないものを見る」 ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━☆★☆★☆ 土星が見頃を迎えています。6月15日には太陽-地球-土星が直線で並ぶ衝(しょ う)の位置となりますが、この前後では、日没とともに東の空から土星が顔を出 し、夜中には南中し、明け方には西の空に沈むことになります。つまり、ひと晩 中、土星を眺めることができるわけです。まあ、ひと晩中眺める必要はまったく ないですが、このメルマガを読んでしまったのもなにかの縁。良かったら土星を 見上げてみませんか?          ・●・     ・●・     ・●・ 人類が初めて土星に望遠鏡を向けたのは、今から約400年前のこと。イタリアの 天文学者ガリレオ・ガリレイが、自ら磨き上げた天体望遠鏡を使って観察したの が最初と言われています。 ガリレオの残した土星のスケッチが残っています(こんな感じ→「O○O」)。土星 の両脇には巨大な衛星があって、3つの天体が並んでいるようだ。そのようにガ リレオは解釈をしたのです。しかし、それ以上のことは残念ながらガリレオの望 遠鏡では確かめることができませんでした。 土星の周りには、どうも環があるらしい。そのことを最初に正しく理解したの は、ガリレオから下ることおよそ半世紀、オランダの天文学者クリスティアー ン・ホイヘンスでした。彼の作成した高倍率の空気望遠鏡(これもすごい望遠鏡 なのですが、また今度…)を用いての、驚くべき発見でした。土星の衛星タイタ ンの発見も、このホイヘンスの業績です。 この環に構造があることに気がついたのは、フランス人天文学者ジョヴァンニ・ カッシーニです。1675年のことです。環の中に、黒い筋のようなものがあること に、カッシーニは気がついたのです。カッシーニの間隙と呼ばれるこの隙間は、 土星の環の中に無数に存在している隙間の中でももっとも大きなものであること が、現代では知られています。 実は今、そのカッシーニの名前をもらった土星探査機「カッシーニ」が、最後の ミッションに挑みつつあります。1997年に打ち上げられたカッシーニは、当初の 予定を大幅に超え、これまで長きにわたって土星の観測を続けてきました。しか し、耐用年数を十二分に超えたこともあり、最後のミッションとして土星と環の 間を22回くぐり抜けた後に、土星の大気に突入して燃え尽きるというミッション を敢行することになりました。 これは、土星の衛星であり、生命が存在している可能性も否定できないタイタン とエンケラドゥスに意図せずカッシーニが落下し、地球起源の微生物を持ち込ん でしまう可能性を消すためです。これまで素晴らしい観測データを送り続けてく れたカッシーニですが、最後は土星とその環を至近距離から観測し、それを私た ちに送り届けてくれる予定です。 このミッションはすでに始まっています。もちろん天体望遠鏡ではカッシーニの 姿を認めることはできませんが、確実に視野の中のどこかで、いまこの瞬間も カッシーニが頑張っていると思って眺めて見るのも、今年ならではの土星の味わ い方と言えるでしょう。 6月の六本木天文クラブでは、この土星にフォーカスします。肉眼での土星の探 し方はもちろんのこと、天体望遠鏡を使った土星の観望も行う予定です。六本木 天文クラブの天体望遠鏡の性能ならば、環があることは十分に分かります。大気 の状況など諸条件が整えば、カッシーニの間隙についても見えるかもしれませ ん。過去には「ブタの鼻が見える~」と言った子や、「ヴィヴィアンだ!」と 言ったおねーさんもいました。あなたにはどのように土星が見えるでしょうか。 ぜひその目で確かめてみて下さい。お待ちしています! 高梨 直紘 東京大学 / 天文学普及プロジェクト「天プラ」