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ATP 内容解説:星の一生

ここでは、ちょっと難しいと評判の ATP第1作 の内容について、実際に天文台で撮影された写真を使いながら 解説していきます。文章中には 国立天文台 すばる望遠鏡 をはじめとする天文台の観測成果へのリンクもはっていますので、もっと詳しく知りたい方はそちらもご覧ください。

激動の宇宙

この宇宙にある水素・ヘリウム以外のほとんどすべての元素は、星が生まれ、死んでいく中で作られました。現代の人間生活を支える鉄も、私たちが生きていく上でなくてはならない酸素も、窒素も、そしてトイレットペーパーに含まれる炭素も、普段私たちが目にするもののすべてはもともと宇宙に輝く星の一部でした。遠い宇宙の、遠い昔の記憶。忙しい生活の中でちょっと立ち止まって、遠い記憶をたどる旅にでかけてみませんか。

私たちを生み出した星にも、私たちと同じように生と死があります。宇宙にはいろいろな大きさの星がありますが、軽い星ほど長生きをし、重い星ほど短い一生を駆け抜けます。私たちを照らす太陽は軽い星で、その一生はおよそ100億年。いま太陽はその寿命の中間点、50億歳ほどです。では、このような軽い星の一生を見てみましょう。

わたしたちはガスから生まれた

星は、宇宙に漂うガスから生まれます。え、宇宙は真空なんじゃないかって? よく宇宙は真空といわれますが、実はガスや塵が漂っています。でも、人間が人工的に作ることのできないくらい薄いガスなので、人間にとっては真空のように感じられます。

宇宙には、星やガス、塵がたくさん集まった場所があります。それを『銀河』と呼びます。私たちが暮らす地球も、天の川銀河という銀河の中にあります。この銀河、太陽のような星が2000億個も集まった星とガスの大集団なのです。あなたは天の川を見たことがありますか? 夏、夜空の暗い場所に行けば空にかかる白い大河が目に入るはずです。人間の目ではぼんやり広がった白い帯にしか見えませんが、望遠鏡で見ると数え切れないほどたくさんの星が集まっていることがわかります。

多くの星は、このような銀河の中で一生を送ります。銀河の中でもとくにガスが集まった場所を『分子雲』といいます。この『分子雲』こそ、星たちが生まれる場所です。この分子雲の中にあるガスが濃い部分に集中していくと、やがてそこから星が生まれます。分子雲は光を出さないので暗黒星雲となって見えますが、電波を出しているので電波望遠鏡で観測することができます。

Barnard 68
孤立した分子雲 バーナード68 (ヨーロッパ南天天文台 ESO 撮影)


光で放つ星の産声

生まれたばかりの星=『原始星』は、まだまわりにたくさんのガスと塵をまとっています。このまわりのガスはどんどん原始星に引き寄せられていき、原始星はだんだん成長していきます。原始星のまわりでは、原始星に落ち切れなかった物質が円盤を作っています。また、原始星は非常に激しいガスの流れ=ジェットを出していて、このジェットがまわりの分子雲にぶつかって別の星が作られるきっかけにもなります。
 → すばる望遠鏡が見た星形成領域

HST Jets
原始星から放出されるジェット (ハッブル宇宙望遠鏡 撮影)


原始星をとりかこむガスはどんどん原始星に降り積もり、やがて原始星のまわりが晴れていきます。原始星は、ガスと塵の円盤:『原始惑星系円盤』に取り巻かれていますが、やがてこの円盤の中から惑星がうまれます。私たちの住むこの地球も、50億年前にはこのような姿をしていたことでしょう。
 → すばる望遠鏡が見た惑星誕生の現場

このような成長を経て、星はやっと一人前に輝くようになります。ここまで成長するのにかかる時間はざっと1000万年。長いようですが、星の寿命が100億年くらいだということを考えると、星はあっという間に大人になり、そこからずーっと大人の星として輝いていることになります。

寿命:次世代へのバトン

その長い長い大人の星の期間を過ぎると、星は一生を終える準備を始めます。それまで星のエネルギー源であった水素が減少し、星の中心には水素から作られたヘリウムがたまっていきます。残った水素は中心にたまったヘリウムのまわりでわずかに核融合反応をしています。この段階から、星全体はゆっくりと膨らんでいきます。そうすることで温度が下がり、星は赤みを帯びて見えるようになります。『赤色巨星』と呼ばれる段階です。夜空に輝く多くの赤い星たちは、こうした年老いた星たちなのです。

こうした星はどんどんどんどん大きく膨らみ、外側はもとの星の100倍以上にもなります。このようにして広がったのが、『惑星状星雲』と呼ばれる天体です。その中心には、もとの星の中で生み出された炭素や酸素がぎゅっとつまった星の残骸『白色矮星』が取り残されます。外側の惑星状星雲はそのまま広がり、やがてまわりのガスと区別がつかなくなります。
 → すばる望遠鏡が見た恒星の最後の姿

PN IC418 PN IC6751
恒星の最後の姿、惑星状星雲  左:IC418、右:NGC6751 (ハッブル宇宙望遠鏡 撮影)


こうして、星の中で生み出された物質がふたたび宇宙の中にかえっていきます。そのような物質は次の世代の星の原料となって星に取り込まれ、一部は星を取り巻く原始惑星系円盤に含まれることになります。そこから生まれた惑星には、前の世代の星が残した様々な物質が含まれているわけです。


そう、あなたの体の中にも。


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企画・制作/天文学とプラネタリウム ATP-WG
 高梨 直紘、平松 正顕、亀谷 和久(内容制作・監修)
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