2009年12月13日
すばる望遠鏡などの運営経費削減の危機に対するアピール
事業仕分けで「削減」との提言がなされた、すばる望遠鏡などの運用費を含む国立大学運営費交付金特別教育研究経費について、国立天文台が多くの人からの意見を募集しています。
国立天文台:すばる望遠鏡などの運営経費削減の危機に対するアピール
仕分けの直後にも、立花隆さんと国立天文台を含む自然科学研究機構の5研究所のトップが緊急会見・討論を開いてこの問題を取り上げていました。また、自然科学研究機構や高エネルギー加速器研究機構など大学共同利用機関法人全体での要望「国立大学法人・大学共同利用機関法人における運営費交付金の確保について(要望)」も出ています。
せっかくの機会なので、この件についての情報をまとめてみようかと思います。本当は仕分け直後にやればよかったんですけど・・。仕分け自体の資料としては、以下のものが参考になります。
・行政刷新会議 http://www.cao.go.jp/sasshin/index.html
・ワーキンググループ配布資料(国立大学運営費交付金)
・評価コメント
・文字起こし(音声ファイルへのリンクも)
特別教育研究経費の仕分け議論については、運営費交付金本体の議論とグローバルCOEなど「大学の先端的取り組み支援」のところと両方でなされています。後者は文字に起こされたものがないのですが、こちらから音声ファイルをダウンロードすることができます。
http://d.hatena.ne.jp/riocampos/20091125/p3
おなじく特別教育研究経費で運営されている装置を持つ機関からの声明・意見表明もあります。
・高エネルギー加速器研究機構(KEK) 機構長コラム「予算の事業仕分けに物申す」
・東京大学宇宙線研究所 行政刷新会議、事業仕分け作業ワーキンググループが、「スーパーカミオカンデによるニュートリノ研究」を含む経費を予算縮減と評定
国立天文台のアピールや立花さん討論会での台長の説明によると、すばる望遠鏡と広域精測電波望遠鏡VERA(岩手、父島、鹿児島、石垣に電波望遠鏡を置いてこれらをコンピュータ上でつなぎ、日本列島に匹敵する口径の電波望遠鏡として使う)の運用経費と、チリに建設中のALMAの建設費の一部が今回削減という提言がなされた特別教育研究経費で賄われているそうです。国立天文台以外には、上に挙げたつくばの高エネルギー加速器研究機構KEKの加速器KEKB、東京大学宇宙線研究所のスーパーカミオカンデの運営経費などもこの費目での予算請求となっています。さらに上のワーキンググループ配布資料を見ると、この特別教育研究経費はこうしたビッグプロジェクトだけでなく、「各大学の使命等に沿った教育研究の推進」というのにも使われています(資料13ページ目)。高齢社会における自殺予防研究とか、アフガニスタンなどでの女子教育などがあるそうです。さらに留学生支援や就職支援もこの特別教育研究経費の一部が使われているそうです。
これだけ多岐にわたる項目をサポートしている特別教育研究経費をどう査定するのかというのは難しい問題だと思います。この費目自体は「(割合を明記しない)削減」という結論になっているのですが、上の会議文字起こしや音声ファイル、あるいは評価コメントで確認すると、特にビッグプロジェクトに関わる議論はほとんどされておらず、削減あるいは廃止と結論づけた方も「別枠にするのではなく運営費交付金本体と統合すべき」「他の競争的資金と重複があるものは見直すべき」という立場であることがわかります。「成果の還元は十分か」「ビッグプロジェクトも本当に見直すべき点は無いのか」という指摘もあるので、ここについてはもちろん研究者側もしっかりと受け止めて対応することが必要だと思います。が、このような議論の流れであったのにプロジェクト経費まで大きく削減されるとなると、それはちょっと話が違うんじゃないの、と思うわけです。
このブログでは、2年前にイギリスで天文学・素粒子物理学の予算が大きくカットされたという話題を取り上げました(2007/11/22、2007/12/30、2008/1/31)。このときは、イギリスの科学技術を管轄するScience and Technology Facilities Council (STFC)が、イギリスも参加して国際協力で運営されているジェミニ望遠鏡への資金協力ストップも含め天文学全体予算の最大25%を削減するかもしれない、という話でした。関連する研究者たちが "Save Astronomy"というサイトを立ち上げ、国会議員へのメッセージを送ることを呼びかけたりしていました。結果的にはジェミニへの参加は継続されていますが、いくつかの小さなプロジェクトはストップされてしまいました。
もちろん使えるお金は有限なので、何が何でも予算をつけろとは言いません。2年前のイギリスの場合は、STFCが天文プロジェクトひとつひとつに対して審査を行って、評価が低いものは予算削減、という方針でした。削減の宣告が突然かつ掲げた削減額が大きすぎて上記のような混乱がありましたが、各プロジェクトに対しての評価をもとに予算額を決めるという手法自体は、間違ったものではありません。しかし今回の事業仕分けでは、ビッグプロジェクトについては十分な審査・評価もされないまま他の事業とまとめて「削減」となっています。仕分け委員の皆さんも、全体としては「科学研究は重要である、だから無駄をなくして本当に有効にお金が研究に使われるようにしたい」というようなことを仰っていてそれはとてもありがたいのですが、実際に特別教育研究経費の仕分けの結論として出て来たのはそういう方向では無くて、議論されないままに「研究に使われるお金」が削られるという恐れです。ここがこの問題の大きなポイントです。
上に挙げたイギリスの件を取り上げたブログ記事で、僕は
しかし日本ではありえないかといえばそうとは限らないわけで。天文学が社会の中でどういう位置を占めて、どれくらいのお金を使ってもよいか、しっかり考えて、議論して、多くの人と合意を形成しておく必要がありそうです。(2007/11/22)
イギリスの一般の人たちの間でこの問題がどれくらい意識されているのかはよくわかりませんが、「国民みんなの科学」のありようが問われる、といっても過言ではないかもしれません。もし日本で同じ状況が発生したとき、研究者コミュニティは何ができるのだろう、と考えるとなかなか恐ろしいものがあります。(2007/12/30)
と書きました。同じような予算カットの危機がまさか2年後に日本に到来するとは全く思っていませんでしたが、上に挙げた点というのはいまの日本でも考えていかないといけないことでしょうね。
投稿者 平松正顕 : 21:53
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2009年12月4日
事業仕分けに関する日本天文学会の声明
このブログでも11月21日に話題にした行政刷新会議の事業仕分けについて、日本天文学会が「国民の皆様へ 事業仕分けと科学研究の将来について」と題した声明を出しています。科学政策ニュースクリップにも、多くの大学や学会からの声明がまとめられています。
天文学会の会員だからというわけでもないですが、僕はこの声明に全面的に賛同します。「研究は大事だ」と頭ごなしに言うのではなくて、研究者コミュニティでも改めるべきところがあれば改め、要望するところはきちんとデータに基づいて要望する、という形になっています。この声明文は、菅副総理や文部科学大臣、民主党の国会議員の皆さんに送付されたとのこと。声明文の中にある 『削るべき「無駄」とともに、貴重な「宝」まで捨て去られようとしています。』という危機が回避されることを願います。今後の経過にも要注目です。
投稿者 平松正顕 : 22:19
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2009年11月21日
基礎科学の「リターン」と事業仕分け
政府の行政刷新会議が行っている事業仕分け、科学界にも大きな影響を与えています。次世代スーパーコンピュータやGXロケットについての計画大幅見直しをはじめ、日常的に科学研究を支える研究費にも予算削減という提言が出ています。
幸いにもインターネット中継を見ることができ、さらにはtwitterで多くの方がリアルタイムに事業仕分けについて議論を交わしていたので、台湾からでもその様子はよくわかりました。むしろ、一部分だけを切り取ったような新聞やテレビの報道に接する機会が少ない分、あまり偏見のない目で(もちろん科学者からの視点というのは避けられませんが)事業仕分けを見ることができている気がします。
この事業仕分け、特に科学プロジェクトの大幅見直しや科学研究費の削減に対して、研究者個人や学会から様々なアピールが出ています。ここには述べませんが、かみ合ってない議論から納得できない結論が出されてしまった事案もあったので、研究者や学会からのアピールが出るのも当然だと思います。これを機に分野を横断した研究者のネットワークを作り、ロビー活動も広報活動もしっかり行っていこうという話も出ています。「ショック療法」という言葉も出てきたりしますが、まさにこれを機に科学と社会の関係がもう一段深くまで議論されるようになるかもしれません。
そういったある種政治的な活動も重要ではあるのですが、僕としてはやはり地道に基礎研究の意義を多くの方に理解してもらえるような活動をしっかり続けていくのが大事だと思っています。仕分け中継を聞いているときに、僕がtwitterで
この議論を見て科学者コミュニティがこれからどうすべきか考えよう。研究するのはもちろんだが、経済効果以外の研究の意義や魅力をしっかり伝え、人の心を動かしていかなくては。その「心の動き」こそが基礎科学の人類全体へのリターンであるはず。 #shiwake3
という発言をしたのですが、10人程度の方がさらに転送(ReTweet)をしてくださったので、ある程度同意してくださる方もいたんだろうと思います。この発言は、仕分け人である蓮舫さんが「基礎研究が進展して、納税者である国民はどんなリターンが得られるのか?」と質問したのを受けてのものです。twitter上では「科学にリターンを求めるなんてわかってない!」という反応も多くありましたが、冷静に考えてみるとこれは至極もっともなご質問だと思います。文科省の方がこの質問にどこまで答えられるべきかわかりませんが、少なくとも研究者であればなにがしかの答えを持っているべきでしょう。
このリターンを多くの方に理解してもらうために、各地で行われているサイエンスカフェをはじめとする科学イベント、研究所や大学の取り組みなどの情報をうまく共有して、科学と社会のいい関係を作っていく仕組みができるといいと思います。そのためにも、科学者一人一人が社会との関係をきちんと認識する必要だと思います。文章を書いたり人前で話したりすることに対しては、もちろん人によって得意不得意があるでしょうから、科学者全員が最前線に立って科学コミュニケーションをやるべきとは思いません。内部でバランスを取りながらコミュニティ全体として役割が果たされてればいいと思います。ただし、そういう活動を無駄だと言ったり蔑視したりする研究者が残念ながら少しいらっしゃるのも事実ですが、そんな意識の研究者はもう生き残れない、ということです。こういった活動では科学者が前面に立つべきですが、それはもちろんプロのサイエンスライター・科学コミュニケーターと呼ばれる人たちがいらないと言っているわけではありません。上手く力を合わせて(単にどっちかがどっちかを利用する、というのではなく)最大限に効果的な活動にしていくことが大事でしょう。
僕たちがやっている天プラの活動の方向は、その意味でも間違ってなかったなと思います。ちょっと長くなるので天プラの活動についてはまた機会を改めて書こうと思いますが、『様々な専門性を持つ人が力を出し合って天文学の面白さを伝え、多くの人と一緒に天文学を楽しむ』というのが天プラの基本理念です。様々なところでいろいろな方たちの協力を得ながらやってきた天プラの活動を通して、天文学の研究内容そのもののみならず天文学(あるいは科学全体)の魅力や意義まで含めて多くの方にご理解いただけるきっかけになってきたと自負しています。たとえば、文科省が2007年に出した「一家に1枚宇宙図2007」の製作に関わる機会を得ましたが、読んで感動した、世界観が変わった、作ってくれてありがとう、そんな声をたくさんいただきました。そういう声はすぐには統計情報として出てこないですしそれで経済が上向くわけでもないですが、そう言ってくださった方々の世界を少しだけ豊かに楽しくできたかな、と思っています。天文学は美しい天体写真を提示することができて、それはそれで芸術品と同じようにとても価値の高く世の中を豊かにするものだと思いますが、その画像から研究者が導き出した様々な事実が多くの方に認知され、その方々の心を動かし、人類が持っている宇宙観や世界観をゆっくりではあるけれども着実に変えていく、そんな力が天文学を含む基礎科学にはあると思うし、それこそが「基礎科学のリターン」であると思います。
「予算が削られるこの緊急事態にそんな悠長なこと言ってられない」という声もあろうかと思いますが、それは「予算がないから成果が出るのに時間がかかる基礎科学は後回し」と言っているのと同じです。明日の生活を豊かにする技術開発が明後日の生活を豊かにする基礎研究と等しく大切であるように、削減されてしまいそうな予算の回復のための政治家や官僚へのロビー活動と同じかそれ以上の労力をかけて、基礎科学の魅力と意義を根本的なところから伝えていく必要があります。「だから基礎科学は大事なんです!」と直接的に説くのではなく、あくまでも面白い研究の結果とそこから導かれる事実の興味深さを地道に伝え、多くの方と一緒にその研究の成果を楽しむ、そんな姿勢がいいのではないかと僕は思っています。
投稿者 平松正顕 : 19:33
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2009年9月5日
最先端研究開発支援プログラム、決まる
補正予算の一環として企画された最先端研究開発支援プログラム、このブログでも当初計画から応募課題が公開された時まで三度話題にしてきましたが、
astroeconomics: 90億円でできること
世界最先端研究支援強化プログラム
最先端研究開発支援プログラム応募課題
ついに中心研究者30名が決まったようです。読売新聞や毎日新聞もニュースにしています。
iPS細胞の山中さんやノーベル賞を獲った島津の田中耕一さんなどの名前もありますね。以前のエントリで紹介した天文学関連研究では、東大の数物連携宇宙研究機構の村山さんが筆頭となっている『宇宙の起源と未来を解き明かす−−超広視野イメージングと分光によるダークマター・ダークエネルギーの正体の究明−−』という課題が採択されたようです。おめでとうございます。これによって、すばる望遠鏡に搭載される新しい目(観測装置)が作られ、宇宙を支配する未知の存在についての研究が大きく進んでいくことになるでしょう。
気がかりなのは政権交代ですね。補正予算に積み上げられた各種基金は原則凍結という方針のようですし、民主党で医療や教育政策にも力を入れているらしい鈴木寛さんも、こちらのブログ(ロハス・メディカル)によれば凍結と言っているようです。ただし、この記事によれば「選定をやり直す」とのことなので、完全につぶれることは無いのかもしれません。朝日新聞の記事には『緊急経済対策とはしないことなどを条件に民主党も賛成に回った。』とありますし。民主党の基本方針は、これらの基金のうちで経済対策の効果が薄いものは止める、というものだったと思いますが、この支援プログラムは経済対策じゃないから止める、となるのか、それともそもそも経済対策じゃないから(選考過程の見直しはあるにしても)そのまま進んでいくのか、気になるところです。
それからこの研究費の金額について。5年間で1件平均90億円というのは既存の研究補助金に比べて破格なのでよく話題になっていますが、文科省科学技術政策研究所が発行した科学技術指標2009によれば、2009年の予算に占める科学技術関連費(全省庁合計)は約3兆6千億円。これに対して今回の支援プログラムは1年あたり540億円なので、科学技術関連費のおよそ1.5パーセント。全体からすると大した割合ではない気もしますが、この7年ほどで科学技術関連費がほとんど横ばいであることを考えると1.5%でも増えるのは大きいですね。もっと少額を多数に配分した方が良いのではないかという声もありますが、大きな予算がないと進めるのが難しい研究があることも確かで難しいところです。このプログラムがどう進んでいくのか、どんな成果が出てくるのか、要注目ですね。
投稿者 平松正顕 : 03:12
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2009年7月31日
最先端研究開発支援プログラム応募課題
4月25日、6月29日のエントリでも取り上げた90億円×30の最先端研究開発支援プログラムについての情報が発表されていることを、ブログ『若だんなの新宿通信』さんの第3回最先端研究開発支援ワーキングチームの資料は宝の山というエントリで知りました。7月24日に応募を締め切って、選考に入ろうとするところのようですね。
【追記:採択課題決定したようなので、こちらに新しいエントリーを立てました。】
中心研究者・研究課題の応募状況等について(PDF、採択課題じゃないのでご注意を)に応募状況の概略が書かれてありますが、応募総数565件。中心研究者の男女比が554:11というのは、もうちょっと何とかならなかったのでしょうか。カテゴリー別では基礎研究が98に対して『出口を見据えた研究開発』が467件。天文学は基礎科学ですが"現在と将来にわたる全人類"という出口を見据えているのですよ、という揚げ足取りはしないことにします。採択される30件がこの応募数の割合とあまり変わらないとすると、基礎研究からは5件前後が選ばれることになるのでしょうか。
最先端研究開発支援プログラムへの応募研究課題名一覧(PDF)は、その名の通り課題名が一覧になっています。天文学関連をピックアップしてみると
- 時空シミュレータの開発と宇宙創生137億年の解明
- 3.8m新技術光学赤外線望遠鏡の開発と、それによる天文学
- 宇宙の進化におけるエネルギー集中と階層形成の解明
- 宇宙の起源と未来を解き明かす−−超広視野イメージングと分光によるダークマター・ダークエネルギーの正体の究明−−
- 南極天文学の推進
- 人の住む星ができるまで
- 我国が誇る硬X 線(10-80keV)領域の集光技術、高精度撮像技術ならびに最新の宇宙技術を駆使し、隠れたブラックホール探索による宇宙進化解明から、被曝量を低減したX 線撮像による生体構造解明の研究
くらいでしょうか。ざっと見ただけなので見落としがあったらすみません。ロケットや衛星などを含む宇宙開発がテーマのものも多くありましたが、それはここにはあげていません。
なんせタイトルしかないので中身がどんなものかは想像するしかないのですが、わかるものだけ説明を入れてみることにします。ひとつめの時空シミュレータ開発、これはシミュレーション天文学を強力に推進するというものでしょうね。理論の望遠鏡とも言われるコンピュータでのシミュレーションは、銀河の形成、星の形成、宇宙全体の進化から地球のような惑星の形成までいろいろな研究に使われ、今や天文学には欠かせない存在です。国立天文台の小久保さんがTBSの情熱大陸に出演されて局所的に知名度も上がった分野です。ふたつめの3.8m望遠鏡、これは京都大学が中心になって国立天文台岡山天体物理観測所に建設が計画されている新技術望遠鏡ですね。国内最大口径の反射望遠鏡を、日本は未経験の分割主鏡によって実現しようとするものです。よっつめの超広視野イメージングは、国立天文台すばる望遠鏡の主焦点カメラによって日本が世界の最先端に躍り出た分野であります。大きな集光能力を持つすばる望遠鏡が広い範囲を一気に観測することで、遠くにある暗い天体をたくさん捉えることができます。遠方銀河トップ10のほとんどをすばる望遠鏡での観測成果が占めていたことからもその能力の高さがうかがえます。これに分光観測を加えたのが今回の提案なのでしょう。これで日本の強みをさらに倍加させることができるでしょうね。
5つ目、南極です。南極は実は天体観測にはかなり適したところです。標高が高く空気が乾燥しているので、水蒸気に吸収されるような赤外線や電波の観測が好条件のもとで行えます。もちろん人間にとっては過酷な環境ですが。実際、アメリカのグループが中心となって、口径10mの電波望遠鏡「南極点望遠鏡」が作られています。その次はなんでしょうね、ちょっとタイトルだけからは想像しにくいですが、地球型惑星の形成とその後の生命圏の誕生に関わる研究でしょうか。最後のは、これまた日本のお家芸と言われるX線天文学と生体構造の研究を組み合わせた提案ですね。うーん、応募総数的にはこの中から一つくらい採択されたら万々歳というところでしょうか?
と思ってこの一覧を眺めていたのですが、今朝のYahoo!newsに気になる記事がありました。
民主党は30日、衆院選マニフェスト(政権公約)に盛り込んだ独自政策を実施する財源について、09年度補正予算(総額14兆円)の未執行分の執行を停止して賄う方針を固めた。(中略)執行停止の対象とするのは、大半が新設で「補正の規模を大きくするための手段」と民主党が批判してきた46の基金に積み上げられた4.4兆円をはじめ、独立行政法人などの官僚天下りの受け入れ先へ支出された3兆円、官公庁の施設整備費2.9兆円など。
えーと、これは民主党が政権取ったらこのプログラム自体消え去る可能性があるってことなのでしょうか。既に応募を締め切って総選挙の8月末にはかなり審査が進んでいるはずで、それが『執行停止可能』なものに該当するのかどうかよくわかりませんが。いずれにせよ注目ですね。
投稿者 平松正顕 : 23:01
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2009年6月29日
世界最先端研究支援強化プログラム
4月にもこのブログのastroeconomics: 90億円でできることで取り上げた、5年90億円を30人の研究者に配分するという『世界最先端研究支援強化プログラム』、関連するキーワード検索でこのブログにいらっしゃる方も一定数いらっしゃって、ほとんど研究業界関連の方なのだとは思いますがそれなりに注目を集めているようです。
この制度について、読売新聞が最先端研究強化、2700億円配分先公募へという記事を出していました。今週中にも公募が開始だそうです。ちょっと気になったのは1件当たり30〜150億円と金額の幅が上にも下にも広がっていることと、
研究費を施設の建設や設備投資に充てることは認められない。
との文言。おっと、このブログの以前の記事で取り上げたのは主に観測装置にかかるお金だったのですが、それは認められないのでしょうか。この記事だけからはちょっとわかりませんが、施設はダメでも装置はいいのかな?望遠鏡は観測施設?観測装置?例えば人工衛星は許容範囲?公募文章には、ちゃんとした規定が載るのでしょうね。
このプロジェクトに対する内閣府の意見募集も始まっています。「科学技術の発展により実現してほしいこと」を記入するのだそうですが、一般的なパブリックコメント、例えば宇宙基本計画(案)に対するコメントなんかに比べるとはるかに自由度が高くて、というか高すぎて、コメントを書くのがものすごく難しい印象を受けます。例文として
『15年後の日本では、震度5以上の大きな地震が事前に予知できる。』
『日本人研究者により、もっと具体的に宇宙の起源が解明される。』
なんかが挙げられてますが、特に後者みたいなコメントが来たとしてどうするんでしょうかね。お金たくさん配分するのでしょうか。うーん、疑問。もちろん国民のニーズを把握するというのは別に悪くないと思うのですが、それまで広く注目されてなかったところからスゴイものが生まれてくるのが「イノベーション」ってやつだと思うので、普段科学を意識しない人が意見を送るのは難しい。だからこそ有識者会議があるわけで。人気投票やってもあまり意味がないでしょう。となると、この意見募集をどう反映させるんでしょう。難しいですね。
投稿者 平松正顕 : 22:04
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2009年4月25日
astroeconomics: 90億円でできること
先日、政府が補正予算の一環として科学技術プロジェクト30件に対し3〜5年間に90億円を支給するという話が出ました。
Science and Communication などいろんなところで話題になっているので、じゃあ天文学では5年90億で何ができるか、というのを過去の事例をもとに考えてみます。この機会に際して実際どんなプロジェクトが動いてるか、とかいうのはわかりません。日本は遠くなりにけり。
実際のお金の話はあとにして、まずは何を目指すのか。「ノーベル賞級」と言われるのは、「重力波の直接検出」「ダークマターの正体の解明」「宇宙誕生直後の重力波の情報が得られる、宇宙背景放射の偏波の観測」とかでしょうか。ほんの1年前であれば、これに「太陽系外惑星の直接撮像」を付け加えたかもしれませんが、去年複数グループがほぼ同時にこれに成功したので、ここでは省いておきます。つい先日、地球の2倍の質量(今のところ最軽量記録)をもつ太陽系外惑星の検出、というニュースもあったので、この分野も(ノーベル賞が出るかどうかは別にして)観測・理論ともに大きく進展していく分野でしょう。僕の専門である星形成については、例えば褐色矮星の誕生の仕組みを明らかにする観測とか、まさに生まれたての星である「ファーストコア」と呼ばれるような天体の発見、などが多くの研究者がしのぎを削る分野です。この他にもきっとネタはいろいろあると思いますし、今ここでちょっと考えただけでぱっと挙げられるようなことではきっと「革新的」な成果にならない、というのもあるかもしれません。
ではお金の話。天文学でお金のかかるもの、それは観測装置です。望遠鏡や付随する観測機器、あるいは人工衛星の場合もあります。ざっと例をあげてみると、
- 国立天文台すばる望遠鏡 建設費:400億円(建設期間は約10年)
- ALMA(現在建設中)の建設費日本担当分:250億円くらい(建設期間は8年?)
- 野辺山45m望遠鏡・野辺山ミリ波干渉計:各50億円(ただし1980年前後)
- 岡山3.8m光学赤外線望遠鏡:10億円くらい
- 工学実験衛星/小惑星探査機 はやぶさ開発費:127億(ロケット含まず)
- 月探査機 かぐや開発費:440億(地上設備含む)
一方海外に目を移すと、フランス・スペイン・ドイツの電波天文学研究機関IRAMのプラトー・デ・ビュール電波干渉計のアップグレード計画"NOEMA"が4300万ユーロ(60億円弱)。アメリカの電波干渉計VLAのアップグレード計画"Expanded VLA"がPhase 1で8300万ドル(83億円/10年)、Phase2に1億1700万ドル(117億円/7年:参考)。
今回のものに関しては3年から5年という区切りがあるので、装置の規模にもよりますが、大規模なものになるとゼロからスペックの検討をして設計図起こして望遠鏡作って観測して成果を出す、というところまで行くのは正直言ってとても難しいでしょう。ある程度技術検討が進んでいて、もう後は作るだけ、くらいなら5年で成果を出すところまでいけるかも。比較的小規模な装置、あるいは既存の装置のアップグレードであれば、時間的には可能でしょうか。
もちろん、現在の人的体制で装置だけ増やしても成果は十分に上がるわけがないので、特任なんちゃらという任期付きポストも準備されることでしょう。ここで大きな成果をあげられれば次のポストも安泰、かどうかはわかりません。これもまた難しい問題。
これで思い出すのは、2005年の天文天体物理若手夏の学校で、天プラ仲間の高梨氏と事務局企画「Astroeconomics」セッションを企画したことです。文部科学省科学技術政策研究所の報告などから抜粋した、先進国といわれる国々の総予算と科学技術予算、天文学関係研究機関の予算や研究者数などを参考資料にして、天文学や科学一般に流れてくるお金にまつわる講演を、天文学者と研究資金分配側の方にお願いしたのでした。たとえば日本天文学会の会員数は約3000、国立天文台の年間総予算は約120億円。単純計算で一人当たり400万円になります。もちろん天文学会員全員が国立天文台の施設を使うわけではないのですが、まあおおざっぱな見積もりとしてはそんなに外れてないでしょう。さて、アナタの研究は年間400万円の価値がありますか?という話になるわけです。どの研究がどれくらいの価値がある、というのをみんなが納得する形で評価するのは大変難しいと思うので、この質問に答えるのは簡単ではありません。もちろん難しいからっていつまでも答えを出さないわけにもいきません。夏の学校での我々の企画意図はこれに答えを出すことではなくて、少しでも意識をしてもらうことでした。
もう一つこの夏の学校の企画で考えたかったのは、これまた簡単には答えの出ない問題ですが、天文学は社会に対してどういう役割を果たしているのか、社会にとって必要なのか、ということです。このブログでも何度かこういうことを書いていますが、特に巨大な観測装置にお金が絡む観測天文学をやっている身としては、考えないわけにはいきません。
これまで僕が携わってきたそれなりの数の天体観望会や講演会、サイエンスカフェで得た経験でいえば、現代天文学が描き出す宇宙の姿を伝えることによって、ある程度の数の人たちに対して何らかの影響(楽しみなり驚きなり、各自の世界観の再構築なり)を与えることができるのは確かです。じゃあ総量としてどれくらいの人にどれだけ影響を与えれば十分と言えるのか。これは難しいですね。でもだからこそ、天プラなんかの活動を通じてより多くの人により成果を感じてもらえるようにしたいとも僕は思っているわけです。すばる望遠鏡の建設費は400億円、つまり国民一人当たり400円。今回のは90億円なのでひとり缶ジュース1本分弱。それくらいの価値はあるな、と思ってもらえる成果を出し、うまく伝えていくことが必要ですね。
【追記】
読売新聞の記事を受けて、6月29日にも関連エントリを書きました。
投稿者 平松正顕 : 21:10
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