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2009年11月21日

基礎科学の「リターン」と事業仕分け

政府の行政刷新会議が行っている事業仕分け、科学界にも大きな影響を与えています。次世代スーパーコンピュータやGXロケットについての計画大幅見直しをはじめ、日常的に科学研究を支える研究費にも予算削減という提言が出ています。

幸いにもインターネット中継を見ることができ、さらにはtwitterで多くの方がリアルタイムに事業仕分けについて議論を交わしていたので、台湾からでもその様子はよくわかりました。むしろ、一部分だけを切り取ったような新聞やテレビの報道に接する機会が少ない分、あまり偏見のない目で(もちろん科学者からの視点というのは避けられませんが)事業仕分けを見ることができている気がします。

この事業仕分け、特に科学プロジェクトの大幅見直しや科学研究費の削減に対して、研究者個人や学会から様々なアピールが出ています。ここには述べませんが、かみ合ってない議論から納得できない結論が出されてしまった事案もあったので、研究者や学会からのアピールが出るのも当然だと思います。これを機に分野を横断した研究者のネットワークを作り、ロビー活動も広報活動もしっかり行っていこうという話も出ています。「ショック療法」という言葉も出てきたりしますが、まさにこれを機に科学と社会の関係がもう一段深くまで議論されるようになるかもしれません。

そういったある種政治的な活動も重要ではあるのですが、僕としてはやはり地道に基礎研究の意義を多くの方に理解してもらえるような活動をしっかり続けていくのが大事だと思っています。仕分け中継を聞いているときに、僕がtwitter

この議論を見て科学者コミュニティがこれからどうすべきか考えよう。研究するのはもちろんだが、経済効果以外の研究の意義や魅力をしっかり伝え、人の心を動かしていかなくては。その「心の動き」こそが基礎科学の人類全体へのリターンであるはず。 #shiwake3

という発言をしたのですが、10人程度の方がさらに転送(ReTweet)をしてくださったので、ある程度同意してくださる方もいたんだろうと思います。この発言は、仕分け人である蓮舫さんが「基礎研究が進展して、納税者である国民はどんなリターンが得られるのか?」と質問したのを受けてのものです。twitter上では「科学にリターンを求めるなんてわかってない!」という反応も多くありましたが、冷静に考えてみるとこれは至極もっともなご質問だと思います。文科省の方がこの質問にどこまで答えられるべきかわかりませんが、少なくとも研究者であればなにがしかの答えを持っているべきでしょう。

このリターンを多くの方に理解してもらうために、各地で行われているサイエンスカフェをはじめとする科学イベント、研究所や大学の取り組みなどの情報をうまく共有して、科学と社会のいい関係を作っていく仕組みができるといいと思います。そのためにも、科学者一人一人が社会との関係をきちんと認識する必要だと思います。文章を書いたり人前で話したりすることに対しては、もちろん人によって得意不得意があるでしょうから、科学者全員が最前線に立って科学コミュニケーションをやるべきとは思いません。内部でバランスを取りながらコミュニティ全体として役割が果たされてればいいと思います。ただし、そういう活動を無駄だと言ったり蔑視したりする研究者が残念ながら少しいらっしゃるのも事実ですが、そんな意識の研究者はもう生き残れない、ということです。こういった活動では科学者が前面に立つべきですが、それはもちろんプロのサイエンスライター・科学コミュニケーターと呼ばれる人たちがいらないと言っているわけではありません。上手く力を合わせて(単にどっちかがどっちかを利用する、というのではなく)最大限に効果的な活動にしていくことが大事でしょう。

僕たちがやっている天プラの活動の方向は、その意味でも間違ってなかったなと思います。ちょっと長くなるので天プラの活動についてはまた機会を改めて書こうと思いますが、『様々な専門性を持つ人が力を出し合って天文学の面白さを伝え、多くの人と一緒に天文学を楽しむ』というのが天プラの基本理念です。様々なところでいろいろな方たちの協力を得ながらやってきた天プラの活動を通して、天文学の研究内容そのもののみならず天文学(あるいは科学全体)の魅力や意義まで含めて多くの方にご理解いただけるきっかけになってきたと自負しています。たとえば、文科省が2007年に出した「一家に1枚宇宙図2007」の製作に関わる機会を得ましたが、読んで感動した、世界観が変わった、作ってくれてありがとう、そんな声をたくさんいただきました。そういう声はすぐには統計情報として出てこないですしそれで経済が上向くわけでもないですが、そう言ってくださった方々の世界を少しだけ豊かに楽しくできたかな、と思っています。天文学は美しい天体写真を提示することができて、それはそれで芸術品と同じようにとても価値の高く世の中を豊かにするものだと思いますが、その画像から研究者が導き出した様々な事実が多くの方に認知され、その方々の心を動かし、人類が持っている宇宙観や世界観をゆっくりではあるけれども着実に変えていく、そんな力が天文学を含む基礎科学にはあると思うし、それこそが「基礎科学のリターン」であると思います。

「予算が削られるこの緊急事態にそんな悠長なこと言ってられない」という声もあろうかと思いますが、それは「予算がないから成果が出るのに時間がかかる基礎科学は後回し」と言っているのと同じです。明日の生活を豊かにする技術開発が明後日の生活を豊かにする基礎研究と等しく大切であるように、削減されてしまいそうな予算の回復のための政治家や官僚へのロビー活動と同じかそれ以上の労力をかけて、基礎科学の魅力と意義を根本的なところから伝えていく必要があります。「だから基礎科学は大事なんです!」と直接的に説くのではなく、あくまでも面白い研究の結果とそこから導かれる事実の興味深さを地道に伝え、多くの方と一緒にその研究の成果を楽しむ、そんな姿勢がいいのではないかと僕は思っています。

投稿者 平松正顕 : 19:33 | 科学政策

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事業仕分けに関する日本天文学会の声明

このブログでも11月21日に話題にした行政刷新会議の事業仕分けについて、日本天文学会が「国民の皆様へ 事業仕分けと科学研究の将来について」と題した声明を出しています。科学政策ニュースクリップにも、多くの...

平松の活動記録 on tenpla.net : 2009年12月4日 22:20

コメント

事業仕分けは必要であるが、その成果は仕分け人の能力に依存している。
次世代スーパーコンピューターやロケットなどの科学技術関連予算が事業仕分け(税金10億円投入)で見送られるようでは、民主党政権には夢も希望もない。
民主党の蓮舫や枝野のような科学技術に無知で、日本の将来に無関心な人物が仕分け人では、致し方ないこと。
毎年2.5兆円の税金を使う高速道路無料化は、無駄な予算であるから、事業仕分けによって廃止してもらいたい。
民主党には成長戦略が無く、成長のための投資と無駄を区別する能力も無いことが見えてきた。
蓮舫が世界一になる必要があるのかと言ったスーパーコンピューターの現在の性能順位は、1〜3位は米国、4位はドイツ、5位は中国、6〜10位は米国そして日本は30位以下。
民主党を衰退させなければ、日本が衰退することとなりそうだ。

投稿者 夢も希望も無い民主党 : 2009年11月21日 20:13

文科省官僚が事業を計画したものや事業運営に関わるものは、全て廃止すべきです。極めて不道徳で無責任な人たちであるからです。
文部科学省の仕事は、質の高い教育を提供し、子供達が良い社会生活を送れるようにすることです。ところが、官僚達は、デタラメ政策で子供達の人生を台無しにしました。
大学を天下り機関に変え、世界最低にまで堕落させたのも文科省官僚です。
不登校、退学者20万人、引きこもり、ニート60万人という現実こそ、文科省官僚の無能と腐敗を明らかにしています。文科省こそ、日本社会を衰弱させる癌です。「『おバカ教育』の構造」(阿吽正望 日新報道)を読むと、すべてが分かります。
腐敗官僚の行う事業は、国民に危険です。
文科省自体を事業仕分けして廃止し、予算削減すべきです。

投稿者 大和 : 2009年11月21日 20:45

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