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2009年1月16日

地球規模の電波望遠鏡

いよいよパリで世界天文年2009開幕イベントが始まっています。インターネット中継もあります。もちろんパリ時間の昼間、英語での講演ですが・・・。いろんな講演や望遠鏡のデモなんかが予定されているようですが、その中の一つに世界中の電波望遠鏡をつないだ一斉観測の企画があります。朝日毎日の記事になってますね。

理論的には望遠鏡は口径が大きい方が暗い天体まで細かく観測することができますが、実際に作れる望遠鏡の大きさはある程度制限があります。大きくて重くなると、重力でゆがんでしまいますからね。これを克服するのが干渉計という技術。比較的小さな望遠鏡をたくさん並べて一斉に同じ天体を観測し、そのデータをコンピュータ上で特殊な合成をおこなうと、その望遠鏡の広がりと同じ大きさを持つ仮想的な望遠鏡として機能させることができます。たとえば国立天文台の野辺山ミリ波干渉計は、口径10mの電波望遠鏡が6台あり、これをさしわたし最大600mの範囲に配置することで、口径600mの望遠鏡と同じ解像度(ものを細かいところまで見る能力)を得ることができます。

この仕組みをめいっぱい活用したのが、超長基線電波干渉法(VLBI)という手法。アンテナを地球規模で配置させ、地球サイズの望遠鏡と同じ解像力を持たせています。VLBIには、ヨーロッパが中心となっているEVN(ヨーロッパVLBIネットワーク)、アメリカがつくっているVLBA、日本のVERAなどがあります。

んで、ようやく天文年の話ですが、こういう地球規模のネットワークは世界天文年にふさわしいということなのでしょう、開幕イベントの中でVLBIデモ観測が企画されています。世界中の17台のアンテナをつないで、非常に遠く(50億光年の彼方!)にある銀河を観測する予定だそうです。この銀河はJ0204+1514、あるいは4C15.05という名前で、おひつじ座にあります。この銀河の中心には巨大なブラックホールがあると考えられています。新聞報道で「ブラックホールを観測」となっているのはこのためでしょうね。

もちろん地球は丸いので、全世界の電波望遠鏡が同時にこの天体を見ることはできません。時間が経つに従って、つまり地球が自転するに従って同時観測に参加する望遠鏡が変わっていきます。こうしていろんな望遠鏡で取られたデータを合成して、ひとつの天体画像を作るのです。また、普通のVLBIでは各望遠鏡で取られたデータを巨大なビデオテープみたいなものに記録して、それを一か所に運んでから信号処理をするのですが、今回行われる実験では、光ファイバを用いた高速ネットワークでデータを直接ヨーロッパの研究所に転送するそうです。技術の進歩によって新しい観測手法が生まれているということですね。

日本からは、茨城県の鹿嶋にある情報通信研究機構 (NiCT)口径34mパラボラアンテナが参加します。日本には、国立天文台以外にもこういう研究をやっているところがあるのです。1980年ごろに野辺山宇宙電波観測所が完成する前には、電波天文学者はこのNiCTの前身である通信総合研究所のパラボラアンテナ(今はもうない?30mパラボラ)を使って観測をしていたそうです。世界天文年日本委員会の委員長である海部さん修士論文のデータはその鹿島のアンテナで取られたものだとか(野辺山宇宙電波観測所20周年誌より)。

この実験の模様はパリの開幕式典に行かなくても、ウェブサイトでリアルタイムに見ることができます。GoogleMapを使った各観測局の紹介、各電波望遠鏡(+データを処理するJIVE Correlator room)をリアルタイムで見ることができるウェブカメラ、そして観測結果。このエントリを書いている時点ではまだ結果が表示されないので、どういうふうに見えるのかわからないのですが、結果が見えてきたら改めて紹介できるといいなと思ってます。

もちろん今回の観測、イベントのための単なるデモンストレーションではなくて今後の観測でも同様の手法が使われていくことでしょう。そしてもうひとつ、望遠鏡の間隔を広げれば広げるほど細かいものが見えるというのがVLBIのすごいところなんですが、それなら何も地球上に限る必要はないですね。実際、パラボラアンテナを搭載した人工衛星と地球上の望遠鏡をVLBIの手法で結合させて、地球のサイズを超える大きさの望遠鏡として機能させていたことがあります。旧宇宙科学研究所が打ち上げたはるかです。現在はもう観測を終えているので、現時点では今回の実験が最大規模の望遠鏡といって間違いないですが、過去には日本の技術でこれを超える大きさの望遠鏡が存在したのです。そして、今はその後継プロジェクトであるVSOP2が進行中。これによって遠くの銀河やブラックホールがより細かく見えてくることでしょう。もちろんこれらの計画には、人工衛星だけでなく地球上の世界各地の望遠鏡が協力してひとつの天体を観測することが必要です。科学の世界はある一面では競争の世界ですが、観測天文学のような巨大科学では世界中が力を合わせてひとつの研究をやり遂げる、という面もあるのです。

投稿者 平松正顕 : 00:52 | 世界天文年2009

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コメント

世界天文年オープニングセレモニーを、詳しく紹介してくださって、ありがとうございます。
英・仏共に理解不足ですが、雰囲気はバッチリ(?)伝わってきました。
今回のように、地球規模でアンテナをつないで、遠くにあるブラックホール候補天体を観測するのは、素晴らしいことですね。いったいどんなことが分かるのだろうと、ワクワクします。

投稿者 sopuranovoce : 2009年1月17日 11:25

すみません、お伺いしたいことがあります。

ユネスコ側からあいさつされたのは、仏人音楽家ジャンミシェル ジャール ユネスコ親善大使ですか?
松浦晃一郎さんは、アジア人初というユネスコ事務局長ですか?

こういうときは、天文学者があいさつされると思っていましたので・・・

投稿者 sopuranovoce : 2009年1月17日 12:43

コメントありがとうございます。
開会式の式次第はこちらのページ
http://ama09.obspm.fr/ama09/open.php?body&eq;oprog.html
にありますが、確かに最初のセッションの座長はJean-Michel Jarre、その次の講演者はUNESCO事務局長の松浦さんですね。そのあとに、国際天文学連合会長のCatherine Cesarskyが講演を行ったようです。この人は天文学者です。

世界天文年は国際天文学連合だけでなく、国連やユネスコと一緒になって制定したものですので、ユネスコの方たちもあいさつをされたようですね。もちろん制定だけでなく、これからの具体的な活動においても天文関係者とユネスコとの協力事業がいくつかあります。より多くの人で天文年が盛り上がるといいですね。

投稿者 平松正顕 : 2009年1月17日 17:07

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