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2009年7月31日

最先端研究開発支援プログラム応募課題

4月25日6月29日のエントリでも取り上げた90億円×30の最先端研究開発支援プログラムについての情報が発表されていることを、ブログ『若だんなの新宿通信』さんの第3回最先端研究開発支援ワーキングチームの資料は宝の山というエントリで知りました。7月24日に応募を締め切って、選考に入ろうとするところのようですね。
【追記:採択課題決定したようなので、こちらに新しいエントリーを立てました。】

中心研究者・研究課題の応募状況等について(PDF、採択課題じゃないのでご注意を)に応募状況の概略が書かれてありますが、応募総数565件。中心研究者の男女比が554:11というのは、もうちょっと何とかならなかったのでしょうか。カテゴリー別では基礎研究が98に対して『出口を見据えた研究開発』が467件。天文学は基礎科学ですが"現在と将来にわたる全人類"という出口を見据えているのですよ、という揚げ足取りはしないことにします。採択される30件がこの応募数の割合とあまり変わらないとすると、基礎研究からは5件前後が選ばれることになるのでしょうか。

最先端研究開発支援プログラムへの応募研究課題名一覧(PDF)は、その名の通り課題名が一覧になっています。天文学関連をピックアップしてみると


  • 時空シミュレータの開発と宇宙創生137億年の解明
  • 3.8m新技術光学赤外線望遠鏡の開発と、それによる天文学
  • 宇宙の進化におけるエネルギー集中と階層形成の解明
  • 宇宙の起源と未来を解き明かす−−超広視野イメージングと分光によるダークマター・ダークエネルギーの正体の究明−−
  • 南極天文学の推進
  • 人の住む星ができるまで
  • 我国が誇る硬X 線(10-80keV)領域の集光技術、高精度撮像技術ならびに最新の宇宙技術を駆使し、隠れたブラックホール探索による宇宙進化解明から、被曝量を低減したX 線撮像による生体構造解明の研究


くらいでしょうか。ざっと見ただけなので見落としがあったらすみません。ロケットや衛星などを含む宇宙開発がテーマのものも多くありましたが、それはここにはあげていません。

なんせタイトルしかないので中身がどんなものかは想像するしかないのですが、わかるものだけ説明を入れてみることにします。ひとつめの時空シミュレータ開発、これはシミュレーション天文学を強力に推進するというものでしょうね。理論の望遠鏡とも言われるコンピュータでのシミュレーションは、銀河の形成、星の形成、宇宙全体の進化から地球のような惑星の形成までいろいろな研究に使われ、今や天文学には欠かせない存在です。国立天文台の小久保さんがTBSの情熱大陸に出演されて局所的に知名度も上がった分野です。ふたつめの3.8m望遠鏡、これは京都大学が中心になって国立天文台岡山天体物理観測所に建設が計画されている新技術望遠鏡ですね。国内最大口径の反射望遠鏡を、日本は未経験の分割主鏡によって実現しようとするものです。よっつめの超広視野イメージングは、国立天文台すばる望遠鏡の主焦点カメラによって日本が世界の最先端に躍り出た分野であります。大きな集光能力を持つすばる望遠鏡が広い範囲を一気に観測することで、遠くにある暗い天体をたくさん捉えることができます。遠方銀河トップ10のほとんどをすばる望遠鏡での観測成果が占めていたことからもその能力の高さがうかがえます。これに分光観測を加えたのが今回の提案なのでしょう。これで日本の強みをさらに倍加させることができるでしょうね。

5つ目、南極です。南極は実は天体観測にはかなり適したところです。標高が高く空気が乾燥しているので、水蒸気に吸収されるような赤外線や電波の観測が好条件のもとで行えます。もちろん人間にとっては過酷な環境ですが。実際、アメリカのグループが中心となって、口径10mの電波望遠鏡「南極点望遠鏡」が作られています。その次はなんでしょうね、ちょっとタイトルだけからは想像しにくいですが、地球型惑星の形成とその後の生命圏の誕生に関わる研究でしょうか。最後のは、これまた日本のお家芸と言われるX線天文学と生体構造の研究を組み合わせた提案ですね。うーん、応募総数的にはこの中から一つくらい採択されたら万々歳というところでしょうか?

と思ってこの一覧を眺めていたのですが、今朝のYahoo!newsに気になる記事がありました。

民主党は30日、衆院選マニフェスト(政権公約)に盛り込んだ独自政策を実施する財源について、09年度補正予算(総額14兆円)の未執行分の執行を停止して賄う方針を固めた。(中略)執行停止の対象とするのは、大半が新設で「補正の規模を大きくするための手段」と民主党が批判してきた46の基金に積み上げられた4.4兆円をはじめ、独立行政法人などの官僚天下りの受け入れ先へ支出された3兆円、官公庁の施設整備費2.9兆円など。

えーと、これは民主党が政権取ったらこのプログラム自体消え去る可能性があるってことなのでしょうか。既に応募を締め切って総選挙の8月末にはかなり審査が進んでいるはずで、それが『執行停止可能』なものに該当するのかどうかよくわかりませんが。いずれにせよ注目ですね。

投稿者 平松正顕 : 23:01 | 科学政策

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最先端研究開発支援プログラム、決まる

補正予算の一環として企画された最先端研究開発支援プログラム、このブログでも当初計画から応募課題が公開された時まで三度話題にしてきましたが、astroeconomics: 90億円でできること世界最先端研究支援強化プロ...

平松の活動記録 on tenpla.net : 2009年9月5日 03:12

コメント

> えーと、これは民主党が政権取ったらこのプログラム
> 自体消え去る可能性があるってことなのでしょうか。

大いにありうる話ですね,というか科学技術政策まわりでは盛んに言われてきていることです.現政権の「思いつき」補正予算は抜本的に見直されるようなので.

あと,無駄と判断された独法の今後も微妙です.科学技術関連だけは聖域というふうではなくなると思います.

投稿者 K_Tachibana : 2009年8月1日 08:48

K_Tachibanaさん、コメントありがとうございます。

独法の話も気になりますね。さすがに今回のマニフェストには載ってないようですが、民主党は独法は全部廃止といってたこともありましたし。科学技術関連も聖域とは思いませんが、多くの意義ある研究が深刻な打撃を受けるような改変は避けてもらいたいところです。

投稿者 平松正顕 : 2009年8月1日 13:22

科学立国の我が国では有意な研究間でやめたら将来は無いと思う。これは改革ではなく、改悪になります。

投稿者 一国民 : 2009年9月2日 21:41

一国民さん、コメントありがとうございます。
この研究費のための法律には民主党も賛成しているので、実際どうなるかはまだわかりませんね。とりあえず選考は凍結、という話もありますが、改めて選考をやり直すのかそれとももうやめにしてしまうのか、見守っておく必要があると思います。

民主党内では鈴木寛さんという方が、科学技術系に力を入れていらっしゃるようです。今回の最先端研究支援プログラムについては、こちらで言及されています。

投稿者 平松正顕 : 2009年9月2日 23:34

おっと、リンクの貼り付けに失敗しました。鈴木寛さんのコメントはこちら。
http://seiji.yahoo.co.jp/giin/minshu/000113/activity/20090424.html

投稿者 平松正顕 : 2009年9月2日 23:35

 ざっと、採択課題を見渡したんですが、「国産プログラミング言語Ruby によるソフトウェア生産革新及びRuby世界展開プロジェクト」なんかはすごく違和感を覚えますね。少なくとも、基礎研究ではないし、私見ですが最近のRubyはセンスが悪くなっているように思います。この様子だと、他の分野でも見る人が見るとおかしさを覚えるチョイスがあっても不思議じゃないですね。
 情報系の分野でもざくっと見ると感性情報工学とか、いわゆる境界領域が手薄ですね。基礎研究よりも出口の見えたぶっちゃけ、産業界の要望が高そうなテーマが重点的という印象を受けます。Rubyみたいに特定のコミュニティに依存する技術というのはこれ以外には見受けられませんが。
 Rubyとかを支援する価値がないとは言わないけれど、なんとなく補助金が違うような気がしますね。JSTとかの最適展開とかそっちのような気がするし。あと、経産省関係とか。

投稿者 G.O.R.N : 2009年9月6日 09:59

あ、Ruby関連は応募の方で採択じゃないですね。見間違いをやってしまったようです。

投稿者 G.O.R.N : 2009年9月6日 10:21

G.O.R.N さん、コメントありがとうございます。
はい、Ruby関連は応募の方ですね。採択がなされた現在もこのエントリが検索エンジンで上位に来るようですので、応募課題であることがわかりやすいように太字にしたりしてみました。

投稿者 平松正顕 : 2009年9月6日 17:13

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