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2010年6月16日

はやぶさ帰還!

小惑星イトカワへの7年にわたる長い旅路を終えて、探査機「はやぶさ」が地球に帰還しましたね。テレビや新聞、ネットでも大きく報道されているようですが、台湾からもネット中継で「その瞬間」を目にすることができました。予想以上に明るく長く輝きながら散っていく「はやぶさ」本体と、そのすぐ前を飛ぶサンプル回収カプセルの映像は、とても素晴らしかったです。カプセルも無事回収され、間もなく日本に移送されるそうで、それも素晴らしいことです。「はやぶさ」は設計より長い時間を宇宙で過ごすことになったわけで、パラシュートが開かず地面に激突したNASAの太陽風サンプルリターンミッション ジェネシスのようになりはしないかとひそかに心配してました。本当に無事でよかった。

ここには、NASAが飛行機から撮影した「はやぶさ」大気圏再突入の映像を転載しておきます。


現地から中継してくださったLIVE! UNIVERSE/和歌山大学の皆さんの動画はこちら。明るく空を照らすはやぶさがきれいに映っています。NHKニュースの映像はNASAのよりも高精細でより素晴らしいです。この映像はそのうち消えてしまうのかもしれませんが・・・。

もういろんなところで報道されたりブログに書かれたりしていますが、幾多の苦難を乗り越えた
「はやぶさ」(とそれを支えたスタッフ)に対して、ちょっと他では見られないくらいの盛り上がりが生まれています。擬人化された漫画や動画が作られ、それがまた次の波を呼び寄せるという形で大きく広がったようです。一方で、こういった盛り上がりは「はやぶさ」ミッションそれだけを考えた場合には付加的な「物語」ではあるわけで、これで盛り上がることに不安や不快感を抱く方も少なくはないようです。僕としては、物語的な付加価値が興味の入口になってもいいとは思います。ただしその付加価値だけが大きく取り上げられると、それこそ本末転倒になってしまいます。今回の件ではやぶさや宇宙探査に興味を持ってくれる人は増えたと思うので、それを今後どう活かしていくかを考えなくてはいけません。まずは、はやぶさの位置づけをきちんと伝えることが重要だと思います。イオンエンジン長時間稼働やイトカワ周辺での自律航行は、次世代の本格的探査機のための実験であって、準備段階に過ぎないのです。「はやぶさ」はMUSES (Mu Space Engineering Spacecraft)というコードネームが示す通りそもそも技術試験機なので、今回起きた様々なトラブルを回避できるような次世代機を作って運用することが重要なわけです。ハレー彗星を接近観測した「さきがけ」・「すいせい」、目的地・火星にたどり着けなかった「のぞみ」、そして今回の「はやぶさ」と、惑星間航行についてはトラブル対応も含め経験が蓄積されています。金星に向かってる「あかつき」と計画中の「はやぶさ2」、その後に続くであろう探査機にこの貴重な経験は活かされなくてはいけません。

それはそれとして、この一連の盛り上がりのプロセス、ぜひ科学技術社会論とか文化論あたりの研究をしている方にはぜひその視点からまとめてみてもらいたいんですよね。どなたか院生の方、修士論文や博士論文のテーマにいかがでしょう。

さて今回の劇的な帰還とそれに伴う盛り上がりが、社会にもいろいろな影響を与えているようです。今日は参議院本会議で「はやぶさ」後継機に関する質疑がなされたそうですし、菅首相をはじめとする政治家のみなさんからの発言も相次いでいます。なんだか今まで予算的な問題で進展の乏しかった「はやぶさ2」も、にわかに予算化の可能性がでてきたようです。もちろん国民の意見を聞いて施策を変えていくというのは悪くはないのですが、取ってつけた感が否めません。自民党の谷垣総裁が「仕分けで「はやぶさ2」の予算が切られた」とtwitterでおっしゃってますが、仕分け以前の自民党政権時代からこれは予算化されてなかったじゃないか、というのは多くの方が突っ込んでいるところでありますし、もう少し深いところから戦略を練っていただきたいところです。

「はやぶさ」は技術試験機としても小惑星探査機としても素晴らしい成果を残しましたし、サンプル回収成功ならもっとすごい成果が得られるわけですから、後継機の開発は進めるべきと思います。が、ここまで目立たずとも着実に成果を上げてきた他の衛星もあるし、もっといえば惑星探査以外の分野の研究プロジェクトもあるわけで、そこをどう手当てするかはきちんとした戦略が必要です。税金が元手の研究なので、成果や状況がわかるようきちんと広報することは大事です。でもだからって、目立ってるプロジェクトだから予算をつける、みたいな風潮じゃ早晩行き詰るでしょう。簡単じゃないのはわかるのですが、もうちょっと広い視野で全体を見渡してほしいです、特に政治家の皆さんには。

この記事の中ほどに書いた、「はやぶさ」の意義について。関連するブログ記事を実は一度書いたことがあります。「はやぶさ」がイトカワに着陸し、その後通信が途絶したのが2005年12月8日。その月の終わり(2005年12月29日)にある報道を受けて書いたのが、『失敗と成功 -はやぶさの場合』。 もう5年も前なのでいま読み返すと自分で突っ込みたくなる部分が無きにしも非ずですが、基本的な考え方は今も変わっていません。今回の「はやぶさ」帰還の成功とカプセル回収成功によって、「失敗と成功」を考える最終段階が近づいてきました。カプセルの中にイトカワの試料が入っているかどうか分かるのに数カ月かかるようですが、入っていても入っていなくてもプロジェクト全体を「成功」「失敗」の一言で片づけてしまうのではなく、何がどうだったのかをきちんと見て判断し次につなげていかなくてはいけないと思います。「失敗したから予算削減」「成功したから予算増額」ではなく、その先どういう方向に行きたいのかを意識しないといけないでしょう。政治家や官僚の皆さんも、研究者などの専門家もメディアも見守る非専門家も。その意味でも、「はやぶさ」についてはまだまだ目が離せません。

投稿者 平松正顕 : 00:28 | hiramatsu log

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コメント


平松さん、いつも冷静なご意見、参考になります。

「が、ここまで目立たずとも着実に成果を上げてきた他の衛星もあるし、〜」のくだり、同感です。


(以下、少し話が逸れるかもしれませんが)
「はやぶさ」は技術を実証するための機械であるという側面もあった(というかそちらの方がメインの役割だったのかも)ので、この結果を「次」に活かすというのが本来の計画であるはずですが、「次」とは何なのか、ということが僕にはよく見えずにいます。

「はやぶさ2」が「次」なんですかね?だとしたらぜひ実行せねばならないと思いますが・・・。多分、つきつめていくと、「何のための宇宙探査なのか?」というような議論にならざるを得ないような気はしますが、最終的に政策決定をする際には恐らく避けては通れないのかも。


そんなことを考えてしまいます。僕も自分が管理しているブログで「おかえり」という趣旨の記事を書きましたが、歯切れが悪いのはそういうことです(笑)。

投稿者 inyoko : 2010年6月17日 11:24

inyokoさん、コメントありがとうございます。

僕も太陽系探査についてはあまり詳しくないのですが、「はやぶさ2」は改良できるところはするにしても、基本技術的には「はやぶさ」を踏襲するようなので、次とはいえないかもしれません。が、探査の科学的内容としては別の種類の小惑星を目指すということで、「次」と言ってもいいのかも(より大型の機体で豊富な科学探査装置を運ぶマルコポーロにしてもしかり)。技術実証の次に本格的探査を持ってくるという意味では「はやぶさ2」は妥当だと思いますが、それをスキップしていきなり「マルコポーロ」ではダメなのか、と言われると僕にはわかりません。それだと間隔が開き過ぎてせっかく実証した技術が維持できないってことなんですかね。

あと、はやぶさで培った技術は何も小惑星探査機に限られるわけではないので、イオンエンジンや自律航行の成功で「次」の選択肢が広まった、というのは確かだと思います。

投稿者 平松正顕 : 2010年6月18日 13:15

こんにちは、またブログ覗かせていただきました。また、遊びに来ま〜す。よろしくお願いします

投稿者 バーバリー 斜めがけバッグ : 2013年1月17日 05:42

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