< 2009年10月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >

2009年10月8日

光ファイバーとCCD

2009年ノーベル賞の発表が続いています。医学生理学賞は細胞の加齢に関係するというテロメアの研究、物理学賞は光ファイバーに関する革新的な研究とCCDの発明について。数年前には大規模集積回路が物理学賞を取りましたし、私たちの日常生活に直結する研究がノーベル賞を受賞するのもいいですね。いやもちろん、CP対称性の破れがあったからこそ今我々が存在しているので、南部小林益川の成果もそういう意味で日常につながっているのですが。

今年の物理学賞のテーマである光ファイバーとCCDは、日常生活にも天文学の研究にも多大な貢献をしています。こうやって快適にインターネットに接続して様々な情報を発信、受信できるのも光ファイバーのおかげですし、携帯電話やデジカメで気軽に写真が撮れるのはCCDのおかげです(携帯やデジカメによってはCCDではない撮像素子を使っているものもありますが)。そして小さなウェブカメラでインターネット経由でテレビ電話ができてしまうなんて言うのは、まさに今年のノーベル物理学賞で対象になったふたつの研究成果の賜物と言えるでしょう。

天文学でも、CCDの登場は革命をもたらしました。それまでは写真乾板という、ガラスの板に薬品を塗ったものに像を写していました。原理的にはフィルムカメラと同じです。もちろん僕は写真乾板を使った観測はしたことがないのですが、東大天文学科の実習で木曽観測所に行ったときに、以前使われていたガラス乾板を見せてもらったことがあります。36cm四方の重いガラス乾板は、観測のために望遠鏡にセットするのも大変だし、撮影したあとの現像処理も時間がかかるし、かさばるので保管も大変です。ガラス乾板からシートフィルムに転写して、このフィルムを画像解析に使うのですが、写真に映った天体の黒さを測る(ネガフィルムなので天体は黒く、夜空は白く写る)デンシトメーターという機械にフィルムをセットして作業を行う必要があって、たいへん手間がかかります。この点、CCDで取得された画像は初めからデジタルデータなので、コンピュータですぐ処理ができます。もちろんこの処理にはいろいろなソフトウェアを駆使してたくさんの手順を踏まないといけないので大変なのは変わりないですが、それでもデータの取り回しの手間は軽減されてますし、保存できるデータ量は圧倒的に増大しています。

写真乾板と比較してCCDが優れている点は、撮影能力そのものにもあります。CCDになって圧倒的に感度がよくなったので、同じ口径の望遠鏡でもより暗いものを撮影することができるようになりました。また研究用の天体写真では天体の明るさを測ることが大きな目的なので、明るい天体は明るく、暗い天体は暗く写ってくれなくていはいけません。こう書くと当たり前のことのようですが、写真乾板の場合は一定以上の明るさをもつ天体が全部同じ明るさに写ってしまうという問題がありました。リニアリティとか直線性とかいう性能なのですが、CCDは写真乾板に比べてこの性能も向上したので、明るい天体から暗い天体まできちんと撮影し、明るさを測定することができるようになったのです。

もう一つのノーベル賞受賞テーマである光ファイバー、これも天文学には欠かせません。もちろんデータ通信回線として、たとえば遠隔地の望遠鏡と観測室を光ファイバーで結んで望遠鏡を遠隔操作するにも役立っていますし、遠く離れた電波望遠鏡同士を光ファイバーでつないでひとつの大きな望遠鏡とする光結合VLBIも実用化されつつあります。一般的なVLBIは、各望遠鏡サイトで巨大なテープやハードディスクにデータを書き込み、それを一か所に物理的に集めてあとからデータを合成するという手法が取られています。もちろんデータを運ぶ手間もかかりますし、記録できるデータ量にも制限があります。光結合VLBIであれば、より多くのデータを記録することができるので、結果的に望遠鏡の感度向上につながります。

CCDと光ファイバーを同時に使う観測装置もあります。多天体ファイバー分光器と一般に呼ばれます。天体からの光を細かく分けることで、その天体にどんな元素が含まれていて、どんな温度で、どんな運動をしているか、非常に遠くの天体の場合はその天体までの距離がどのくらいか、という天文学にとってとても重要な情報を得ることができます。従来は、天体の位置に合わせて細いスリットをあて、そこを通ってきた光を分光器に入射して分光し、その光を撮像素子上に結像させてスペクトル画像を取得していました。複数の天体の分光を同時に行いたいときは、それぞれの天体の位置に合わせて複数のスリットをあけた板をカメラの前におくことで多天体分光が可能なのですが、観測したい天体が一部に密集しているとスペクトルが重なってしまうので、上手く観測することができません。そこで光ファイバーの登場です。天体の位置に合わせて光ファイバーを設置し、その光ファイバーを使って分光器まで光を導きます。その後ろに控えるCCD上で互いのスペクトルが重ならないようにファイバーの位置を調整することで一度に数多くの天体の観測が可能になります。これぞまさに今年のノーベル物理学賞のテーマのふたつが見事に融合した手法ですね。たとえば、史上最大の宇宙地図作りを行っているSDSS(スローン・デジタルスカイサーベイ)でもこの手法が使われています。CCDと光ファイバーがあってこそこの宇宙地図作りが可能になった、と言っても過言ではありません。上にあげた写真がそのSDSSで使われている観測装置の一部ですが、赤いカバーで覆われたたくさんの光ファイバーが見えています。この一本一本が非常に遠くにある銀河の位置に合わせてセットされるわけです。何億光年もかなたからやってきた光が望遠鏡の鏡で集められ、このファイバーを通って分光器に導かれ、分光されてCCDにたどり着きます。何億年にもわたる光子の旅の終点ですね。これについては東大理学系のウェブページや雑誌星ナビの特集記事がわかりやすいと思います。

天文学を大きく変え、その成果を非常に大きなものにしてきた光ファイバーとCCDの組み合わせ、もちろんこれからも活躍が期待されます。何かと話題の補正予算で組まれた最先端研究開発支援プログラムに採択された『宇宙の起源と未来を解き明かす−−超広視野イメージングと分光によるダークマター・ダークエネルギーの正体の究明−−』においても、多天体分光器の開発がおこなわれるのではないでしょうか。大幅に減額という報道もあって先行きがやや不透明なのが気がかりですね。こういう研究計画は必要なものを積み上げて行った結果出てきた金額を申請するもののはずなので、政治的理由で配分金額が1/3になってしまったら研究計画の大幅見直しを迫られる場合もありそうです。ノーベル賞受賞者の皆さんをお祝いするとともに、研究計画のスムーズな実行ができることを心から望んでいます。

[画像提供:Sloan Digital Sky Survey]

投稿者 平松正顕 : 01:19 | hiramatsu log

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.tenpla.net/cgi/hlog/tt-cgi/tt_tb.cgi/291

コメント

はじめまして。・・・コメントするのは初めてですが、MLではお世話になっております。

大変!興味深い記事でした。
天体の位置に合わせて光ファイバーを配置し、そこから光をガイドして・・・というくだり、非常に面白かったです。

望遠鏡→光ファイバー→分光器(スリット)→CCD という風になってるんでしょうか?それとも、スリットとかはなしでCCDで分光までしてしまうのですか?

投稿者 inyoko : 2009年10月8日 01:39

inyoko さん、こんにちは。
お読みいただきありがとうございます。今回の受賞はとても身近な技術なので親しみやすいですね。

ご質問の件ですが、スリット・ファイバー分光ともに分光器が必要です。本文中にも書き足しておきますね。
・スリット - 分光器 - CCD
・ファイバー出口 - 分光器 - CCD
という構成になっています。この間には光を導くためのレンズや鏡が多数はさまっているのが普通ですが、ここでは省略しています。

ご指摘ありがとうございました。これからもよろしくお願いします。

投稿者 平松正顕 : 2009年10月8日 13:02

カッコいい!興味をそそりますね(^m^)

投稿者 グッチ キーケース : 2012年11月10日 05:17

あなたがそこに持っている素敵なサイトでは、これは私のコメントを信用不良債権です, bad credit loans [url&eq;http://badcreditloansus.blogspot.com]bad credit loans[/url] bad credit loans

投稿者 bad credit loans : 2013年4月7日 05:31

コメントしてください




保存しますか? はいいいえ