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2008年6月4日

ドイツの天文教育

先のエントリに書きました通り、台湾天文学会の年次総会に行ってきました。参加者は130人ほどだったと思いますので、日本の1/10ってことはなさそうです。まあでも、日本の天文学会では到底不可能であろう集合写真が撮れるくらいの規模ではあります。(写真は台湾高速鉄道新竹駅で撮った新幹線。学会中はあまり写真を撮らなかったのです。ホテルの目の前には広大な太平洋が広がっていたのですが、いかんせんお天気に恵まれず。)

招待講演では、ドイツで2番目に古いプラネタリウムというZeiss Planetarium Bochumの館長でありRuhr-Universität Bochumの天文学の教授で電波天文学者でもあるSusanne Hüttemeisterさんが、ドイツの天文事情について講演されました。

ドイツの天文事情は日本と同じ面もあり違う面もあり、という感じでしょうか。ドイツの天文学会に入っている人数は800人ほど。なんだか思ったより少ないですね。ドイツにはヨーロッパ南天天文台(ESO)やマックスプランク研究所という世界に名だたる天文学研究機関があって、しかもマックスプランク研究所にはMPA(天体物理学研究所)、MPIfR(電波天文学研究所)、MPIA(天文学研究所)、MPE(地球外物理学研究所)などが属しているというのに、天文学会に入っている人は日本天文学会正会員(1700人)の約半分。意外です。日本の天文学会には学校の先生やアマチュアの方も大勢加入されていますが、ドイツでもそういう方々の参加もあるようです。そして天文学の修士・博士課程を置いている大学は18校だそうです。これが天文学/宇宙物理学専攻の数を示しているのか、あるいは物理学専攻の中にある天文学研究室も含まれているのかはわかりません。

日本と同じだなぁと思ったのは、学校のカリキュラムとしての天文学は存在しないこと、学校(特に小学校)の先生の科学的知識や科学的トレーニングが不十分である場合が多いこと、高校で物理学は最も嫌われる教科の一つであること、などでしょうか。Hüttemeisterさんが小学校のあるクラスで「天の川見たことある?」という問いかけをした際には、たった一人女の子が手を挙げただけだったそうです。しかもその子はトルコからの移民の子で、天の川を見たのはトルコで。ドイツ国内ではないのです。もちろんその小学校がどれくらい大きな町にあるかによって答えは変わるわけですが、日本の多くの学校でも同じような結果が返ってきそうです。

日本と決定的に違うのは、旧東ドイツの存在。共産圏にあったこの地域では、イデオロギー的に天文学教育が盛んにおこなわれていたそうです。「神は空の上にはいない」ことを示すためだ、とHüttemeisterさんはおっしゃっていました。神と共産主義の関係はよくわかりませんが、ともあれそういう事情があったのでカリキュラムにも天文学という科目(理科の一部ではない)があり、数多くの学校に望遠鏡があり、プラネタリウムをもつ学校もたくさんあったとか。ドイツは連邦制で教育に関しては各州が決定権を持つそうですが、ドイツ統一の結果、旧東ドイツの州でも天文学という科目が姿を消しつつあるそうです。

ドイツ統一のあとの波はEUの存在だそうで、たとえばヨーロッパ宇宙機関(ESA)とプラネタリウム業界が協力して番組を作り、全プラネタリウムで同じ番組を流すということも計画されているようです。プラネのハードウェアにはもちろん差があるので、プロジェクターによる全球フルデジタル投影から1面スライド投影までいくつかのバージョンを用意するとのこと。単館ではできないこともこういう形でなら実現できるし、一斉にプロモーションするすれば効率も良い、とのことでした。日本だとコニカミノルタプラネタリウムと五藤光学の2社がシェアを分け合っていてなかなかその壁を越えられないのですが(最近のKAGAYAさんの銀河鉄道の夜は例外的に両方の館で上映されています)、日本でもJAXAや国立天文台が音頭を取って、かぐや や 宇宙ステーション、すばる望遠鏡、ALMAの成果を一斉に公開できたらいいのに、と思いました。が、国立天文台の4D2Uプロジェクトはそれも視野に入っているんですよね。これからに期待です。

投稿者 平松正顕 : 00:02 | 研究生活@台湾

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コメント

お世話になります。とても良い記事ですね。

投稿者 グッチ シャツ : 2012年11月10日 06:17

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