< 2009年5月 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 15 16 17 18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29 30 31 >

2009年5月12日

新参と古参

1週間ちょっとの日本滞在から台湾に戻ってきました。暑いです。野辺山では結局あまり天気に恵まれず、当初の計画通りの観測はできませんでした。冬には乾燥して観測条件もいいのですが、もう5月ですもんねぇ。

さて、ハッブル宇宙望遠鏡改修のためのスペースシャトルアトランティスが今朝打ち上がりましたね。故障した観測機器をより高性能のものに取り換えて、19年目を迎えるハッブル宇宙望遠鏡もさらなる性能向上が見込まれています。

ハッブルの天体画像といえば、階段状の変な形にトリミングされたような形の写真が有名ですね。例えばこれとかこれとか。「ハッブル画像の代名詞」とも言えそうなこれらの画像は、広視野惑星カメラ2(WFPC2)というカメラで撮影されたものです。ハッブルの主鏡研磨ミスが見つかり、その修理ミッションで1993年に取り付けられたカメラです。視野が欠けているのは、わずかにゆがんでいる主鏡の光軸を調整するための装置がそこに取り付けられているから。(訂正:10年以上このように思っていたのですが、勘違いでした。すみません。画像が欠けてる側のCCDは拡大像を撮影するようになっているので、4枚のCCDの画像を合成するときにこの部分を縮小表示してスケールを合わせるため、階段状になるようです。説明はこのあたりのページに。)当時僕は中学生でしたが、Newtonに見開きで修理前後に撮影された銀河M100の画像が掲載されていて、その画像が全然違うのに驚いた覚えがあります。WFPC2を作ったジェット推進研究所(JPL)の解説ページにもある画像です。これだけ見え方が違ったら、そこから展開できる天文学も大違いです。上記のJPLの記事、『ハッブルを2度救ったWFPC2』というタイトルになっていますが、1回目はその光軸補正、2度目は、後継として取り付けられた新しいカメラACSが壊れた時。ハッブル本体は今年で打ち上げ19周年ですが、WFPC2も16年になろうとしています。そのカメラが今回の改修飛行で取り外され、WFC3(広視野カメラ3)という後継機が取り付けられます。もはや伝説ともいえるこのカメラ、地球帰還後はどこかに展示されたりするのでしょうかね? 個人的には、ハッブル宇宙望遠鏡本体もお役御免になった暁にはスペースシャトルで回収して、「人類の世界を大きく広げた歴史的な"目"」として保存してほしいものです。シャトル退役の問題がありますし技術的な問題もあるかもしれませんが、なんとか地上に持ち帰ってほしい。

そして今週はもう一つ宇宙望遠鏡のニュースがあります。ヨーロッパのハーシェルプランクという2基の宇宙望遠鏡の打ち上げがあと2日に迫っています。ハーシェルは赤外線宇宙望遠鏡で、この種のものとしては史上最大の口径3.5m(電波天文衛星では日本のはるかが口径10mの望遠鏡を持っていました)、プランクは宇宙背景放射を専門に観測する望遠鏡です。これらは二つとも太陽-地球の第2ラグランジュ点に向かいます。地球からの距離は約150万km、ハッブルのまわる高度600kmの軌道とは桁違いに遠いのでもはや修理ミッションなど無理な距離。こんなとこまで飛んでいくのはひとえに観測条件が良いからです。天文学者は観測条件が良ければ超高地の砂漠だろうが南極だろうが宇宙空間だろうがかまわず望遠鏡を送り込みます。ハーシェルの方は、僕の研究領域(星の誕生)においても大規模な観測プロジェクトがありますので、どんな結果が出てくるか楽しみです。無事打ち上がりますように。

投稿者 平松正顕 : 23:13 | hiramatsu log

トラックバック

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.tenpla.net/cgi/hlog/tt-cgi/tt_tb.cgi/260

コメント

日本滞在はいかがでしたか?
少し懐かしかったのでは・・・
2年前、天文台を巡る旅を企て、キャンピングトレーラーで親子3人、野辺山、乗鞍太陽コロナ研究所、スーパーカミオカンデを見学させていただきました。
研究していらっしゃる先生方の、真摯な取り組み方に感動して帰ってきました。
乗鞍で、日江井栄二郎 先生にお会いしました!
平松先生も乗鞍にいらしたことがありますか?

ようやくアトランティスが打ち上げ成功となりましたね。ハッブル宇宙望遠鏡の修理ミッションは、とても嬉しいです。もうしばらく、素晴らしい映像を送ってくれることを願っています。

投稿者 sopuranovoce : 2009年5月13日 19:09

アトランティス、無事大仕事を終えて帰ってきましたね。ハッブルの新しい目による成果も楽しみです。

乗鞍岳には登ったことがあるので観測所のわきを通り過ぎたことはありますが、中に入ったことはありません。スーパーカミオカンデも一度見てみたいと思っています。

投稿者 平松正顕 : 2009年5月27日 22:08

コメントしてください




保存しますか? はいいいえ