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2008年9月4日

星の数ほど

9月11日に迫ったSMA(Submillimeter Array)の観測提案締め切りに向けて、論文を読んではいろいろ考える日々(論文読んで考えるというのは締め切り前でもそうでなくてもあまり変わらない日常風景ではありますが)です。NHK『爆笑問題のニッポンの教養』に出演されていたすばる望遠鏡の林台長もおっしゃっていましたが、研究用望遠鏡を使うためには『こんな観測するとこんな成果が得られます。だから観測させてください』という観測提案書(プロポーザル)を書いて、それが審査に合格する必要があります。倍率は望遠鏡によって違いますが、今回僕が観測したいと思っているSMAではだいたい3倍から4倍。年に2回観測提案のチャンスが回ってきますが、その審査に合格しないと半年間はデータが手に入りません。比較的小規模な望遠鏡なら大学が所有していてある程度自由に使える場合もありますが、大きな観測装置になると世界中から届く観測提案に負けない魅力的なモノを出さなくてはいけなくて、大変です。

で、これまでに書かれた研究論文を参考にしながら観測対象を選んで、今回の観測ではどんなことを解明しようとしているのか、望遠鏡やカメラはどのようなセッティングにするのか、そのセッティングで観測対象はきちんと見えるか(観測対象が暗すぎないか)などということを考えながら観測提案を書きすすめていくわけですが、なんと台北にいる研究者さんと同じ天体を同じようなセッティングで観測しようとしていることがわかりました。これは大変。あちらはSMAでの観測経験も豊富だし、過去の観測から論文も発表しているし、新参者の僕としては真っ向勝負で勝つ(=観測提案を受理してもらう)のは相当大変。というわけで、急きょ天体を変えることにしました。観測候補の一つとして考えてあった天体が別にあったので、そちらで対応しようとしています。

「星の数ほど星はあるのに観測天体が重複するのか?」と不思議に思われるかもしれませんが、重複するんですねそれが。僕が観測しようとしているのは、誕生してからせいぜい10万年しかたっていない非常に若い星です。太陽の寿命はおよそ100億年なので、その10万分の1の年齢。これを人間に直してみると、寿命を100歳としてその10万分の1は1/1000年、つまり生まれてから9時間しか経過していない本当の赤ちゃんです。人間で考えても、そんな生まれたばかりの赤ちゃんの割合は大変少ないですね。同じように生まれて10万歳の赤ちゃん星も数少ないわけです。そんな赤ちゃん星のなかでも、特に若そうな天体、あるいは最近になって発見された天体は世界中の星形成を専門にする天文学者が注目しています。そうなると、観測提案が重なってしまうわけです。

今回は観測の件でメールを交換したおかげで重複が判明したわけですが、これが全然知らない人の場合には気づかなかったでしょう。特に、似た性能の違う望遠鏡に観測提案が出される場合には、それぞれ独立に同じ天体を観測することになります。実際、僕が2007年に出した論文でも、僕が論文を投稿した1週間後に、ヨーロッパ陣営の望遠鏡を使った同じ天体の論文が発表されるということがありました。あれはさすがにショックでしたが、多少論文での議論の方向が違ったので、あとから出した僕の論文も何とか受理してもらえました。「何か思いついたら世界で3人くらいは同じことを思いついた人がいるものだ」ということを聞いたことがありますが、まさにそんな感じで進んでいくのが研究ってもんでしょうか。

投稿者 平松正顕 : 23:04 | 研究生活@台湾

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